長崎大学高度感染症研究センターとは

長崎大学高度感染症研究センターは、高い安全性が確保された実験施設(BSL-4施設)を整備し、その施設を用いた感染症研究を推進することにより、人類に貢献することを目的としています。また、高度な感染症研究やバイオリスク管理を担う人材を育成することに努めます。

本センターは、2017年に設置された感染症共同研究拠点を前身としており、2022年4月から長崎大学附置研究所として部局化するに際し、「高度感染症研究センター」と名称を新たにしました。また、全国の関連研究者の共同利用・共同研究拠点「新興感染症制御研究拠点」として文部科学省に認定されました。

諸外国のBSL-4施設を有する研究機関との連携を進めるとともに、全国の関連研究者のBSL-4施設を用いた研究活動を支援します。

 

センター長あいさつ

 海の向こうで起こった感染症は他人事ではありません。天然痘は735年遣唐使の一行が日本に持ち帰り、当時の人口の約3割が死んでしまう大流行を起こしました。鎖国の間、海外の伝染病が日本に持ち込まれる事も減りましたが、出島に上陸したインフルエンザ(と思われる流感)は3年掛けて江戸まで到達し、1か月で8万人を殺しました。新大陸の風土病だった梅毒はコロンブスの一行が欧州に持ち帰った後、僅か18年で日本に到着し江戸時代の国民病となりました。その当時の交通事情を考えると驚異的スピードです。恐るべき天然痘は種痘によって撲滅し、梅毒はペニシリンによって容易に治療できる病気になりました。インフルエンザもワクチンや治療薬が重症化を防いでくれます。いずれも医学研究の金字塔です。

 SARSが勃発した際に日本は無傷で済んだため、多くの日本人は「何が外国で起ころうと日本は大丈夫」みたいな気分になりました。しかし、その仲間の新型コロナウイルスは瞬く間に日本を含む世界中に広がって多くの犠牲者を出しました。その少し前、やはりSARSの類縁疾患MERSは、中近東の病気だなんて思っていたら、お隣の韓国で多くの感染者・死亡者が出て大騒ぎになりました。

 近年、環境破壊や気候変動の影響で人類が新しい病原体と遭遇する機会が激増しています。そして人や物資は昔では想像できないスピードで世界中を飛び回っているので、世界のどこで起こった新興感染症であっても知らないうちに日本に入り込む恐れが常にあります。水際対策は、潜伏期間が長かったり無症候性感染者もいたりする感染症では上手く行きません。高病原性鳥インフルエンザやウェストナイル熱のように渡り鳥が運んで来ると、入国審査では塞き止められません。

 エボラウイルス病もアフリカの風土病だと思っている人が殆どでしょう。しかし2014~2016年の西アフリカにおける流行は欧米諸国にまで拡大しました。日本には入り込むはずがないというのは、全く根拠のない妄信です。
 エボラウイルス病に加えラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、ヘニパウイルス感染症等は致死率が高いために、有効な治療法や予防法の開発が急務です。当然これらの病原体を扱う研究を進めるためには最高の安全機能を備えた実験施設が不可欠で、それがBSL (biosafety level) 4の施設(BSL-4施設)です。

 現在、BSL-4施設は世界20数か国に60施設以上存在します。わが国では約40年前に建設された国立感染症研究所の施設が唯一のもので、非常事態に対応し診断や治療に結びついた実験作業を行うことのみが認められています。しかし、種痘やペニシリンや新型コロナワクチンの開発が多くの命を救ったように、BSL-4病原体に対しても基礎的な医学研究を進める事が非常に重要であり、自国民を守り世界に貢献するため、わが国でも最新設備を有するBSL-4研究施設の存在が求められて来ました。

 このような背景の下、長崎大学は2010年にBSL-4施設設置の検討を開始するという学長メッセージを発信し、2016年には国の関係閣僚会議がその支援を決めました。これを受けて感染症共同研究拠点が創設され、2017年7月にBSL-4施設が竣工しました。感染症共同研究拠点は、2022年4月から附置研究所「高度感染症研究センター」として再出発し、全国の関連研究者の共同利用・共同研究拠点として文部科学省から認定されました。現在、施設の機能・安全性の検証と必要なトレーニングを重ね、BSL-4病原体を使った本格稼働に向けて準備を進めています。

 本センターでは、長崎大学と日本全国の研究者が力を合わせてBSL-4施設を用いた感染症研究を推進する事を目指します。同時に、BSL-4病原体を安全に取り扱うことが出来る研究者とバイオリスク管理の専門家の養成も行います。長崎は西洋医学発祥の地として医学の進歩に貢献して来ました。種痘も長崎から日本全国に広まり、多くの命を救いました。今また長崎は、医学研究において日本全国そして世界に貢献することを目指しているのです。
 そのために最も重要な事は、BSL-4施設を絶対安全に運用し、地域住民の方々と信頼関係を築き、地域住民の方々が安心して研究活動を見守ってくださる事だと思っています。皆様のご理解とご協力、そして応援を心からお願い申し上げます。

2024年4月

長崎大学高度感染症研究センター長  森内 浩幸

 

組織図

沿革

平成18~20年 科学技術振興調整費「高度安全実験(BSL-4)施設を必要とする新興感染症対策に関する調査研究」
(2006~2008年)
  22年 5月 BSL-4施設設置の検討を開始することを学長メッセージとして公表
(2010年)
  27年 6月 長崎県・長崎市・長崎大学により、感染症研究拠点整備に関する基本協定締結
(2015年)
  28年11月 経済・医療14団体から長崎県、長崎市へ要望書提出
(2016年)
  28年11月 関係閣僚会議にて、長崎大学のBSL-4施設設置計画を、国策として進めるとともに、長崎大学への支援など「国の関与」を決定
(2016年)
  28年11月 長崎県知事、長崎市長が、長崎大学の施設整備計画の事業化に協力することを合意
(2016年)
  29年 9月 「長崎大学の感染症共同研究拠点の中核となる高度安全実験(BSL-4)施設の基本構想」の取りまとめ・公表
(2017年)
  31年 1月 BSL-4施設(実験棟)新営工事開始
(2019年)
令和 3年 7月 BSL-4施設(実験棟)竣工
(2021年)
令和 4年 3月 高度感染症研究センター本館竣工
(2022年)
令和 4年 4月 高度感染症研究センター(附置研究所)が発足
(2022年)

年報一覧