2016年2月


病害動物学分野の皆川昇教授。

マラリアを媒介する蚊の研究でアフリカ現地に貢献

 熱帯医学研究所の病害動物学分野は、昆虫が媒介する熱帯病による健康被害を防ぐことを目的として、1987年に発足しました。現在は、主にマラリアとデング熱を媒介する蚊を対象に、分子生物学から生態まで幅広く研究を進めています。研究を率いる皆川昇教授は、ケニアなどでマラリアを媒介するハマダラカの生態を1997年から研究しており、「家の中での行動から遺伝子分析まで、蚊のすべてを知る努力をしている」と話します。

防虫蚊帳の張り方も一工夫
マラリア感染率が4分の1に激減

 最近の研究成果としては、糸に防虫剤を練り込んだ特殊な「防虫蚊帳」の研究があります。蚊をなかに入れないだけでなく、蚊帳に止まった蚊を防虫剤で駆除する効果があります。皆川教授らは、この防虫蚊帳がマラリアの感染をどのくらい防げるかを、約4000人の子どもたちを対象に調べました。その結果、蚊帳を張らない場合の感染率が65%だったのに対し、防虫蚊帳を張ると40%に減少することが分かりました。

 さらに現地の子どもたちの生活を詳しく調べると、大きくなると親から離れて蚊帳の外で寝るようになり、感染率が高くなることが分かりました。一方、ケニアの民家の多くは天井と壁の間にすき間があり、家に入った蚊は天井近くで休む習性があることも分かりました。そこで、天井と壁のすき間にも防虫蚊帳を張って蚊帳の外で寝る子どもの感染率を調べたところ、感染率が15%まで下がることを明らかにしました。「蚊の生態だけでなく、現地の人の暮らし方まで調べることで、感染率を大幅に下げることができた」(皆川教授)のです。

アフリカで女性研究者二人が
“古タイヤハンティング”

 デング熱の研究は、東南アジアとアフリカで行っています。デング熱は近年、ケニアやモザンビーク、タンザニアなどアフリカ諸国で感染が拡大しています。そこで、病害動物学分野の比嘉由紀子助教と二見恭子助教の二人が現地に乗り込んで研究を行っています。

 デング熱を媒介する蚊は主にネッタイシマカで、以前は森に棲んでいたと考えられています。ところが、森林伐採が進んだアフリカでは古タイヤに溜まった雨水に生息するようになりました。二人は車で走りながら古タイヤの山を見つけては持ち主と交渉し、蚊を採集しています。

 皆川教授は「アフリカで古タイヤ探しなんて変わってるよね」と笑いながら話しますが、二人の助教の奮闘で、こうして見つかった蚊は実は「アフリカの外からやってきた可能性がある」「人間を攻撃する遺伝子を持ち、しかもデングウイルスの増殖能力が高い」ことなどが分かりました。地道な研究で蚊の正体に迫ることで初めて、感染症を予防し、大流行を防ぐ対策が可能になるのです。

 長崎大学では「未来の科学者養成講座」というプロジェクトを進めています。皆川教授が夏休みの自由研究を指導した、ある小学6年生の女の子は、ヒトスジシマカの幼虫(ボウフラ)を育てる容器を日向に置いた場合と日陰に置いた場合とで、どちらがよく育つかを研究しました。研究成果は宿題として学校に提出しただけでなく、日本衛生動物学会南日本支部大会でも発表されました。「大人の研究者の質問にもしっかり答えていた」と顔をほころばす皆川教授。「アフリカでも地元の長崎でも、それぞれの地域への貢献を大切にしていきたい」と胸の内を語ります。



この内容は、感染症ニュース 第3号(2016年2月発行)に掲載しています。