2016年6月


熱帯医学研究所免疫遺伝学分野の平山謙二教授(右端。ベトナム・ホーチミン市第2小児病院にて)

熱帯地域の重要な感染症を分子レベルで研究

 私の所属する免疫遺伝学分野では、熱帯地域で重要な問題となっている感染症について、体内でどんな免疫反応が起きているのか、病原体とどうたたかっているのかを、遺伝子レベル、分子レベルで研究しています。

遺伝子工学を駆使して
「顧みられない感染症」を解明

 現在、私たちが特に力を入れているのは、熱帯地域で多くの人が感染し、死亡率も高いのに、ほとんど対策が進められていない「顧みられない感染症(NTDs)」です。具体的には、マラリアやシャーガス病、住血吸虫症、デング熱です。これらの感染症について、体のなかでどんなことが起きているのか、どんな免疫機構が働いているのかなどを、遺伝子工学を駆使して研究しています。最終的な目標は、これらの感染症の診断薬やワクチンを開発し、感染症を制圧することです。

 私が学生だった1970年代後半から、遺伝子工学が世界的に大きく発展しました。遺伝子工学とは、遺伝子を人工的に操作することで、別の種類の遺伝子を組み合わせたり、組み換えたりする技術です。医学分野での利用も進み、糖尿病治療に使うインスリン、ヒト成長ホルモン、B型肝炎ワクチンなどに応用されています。

 ワクチンの開発は、私が医者を志したときからの夢です。しかし、私たちが取り組んでいる基礎研究から製品開発へとつなげることは簡単ではありません。また、遺伝子工学を駆使するといっても、研究室の中だけではできません。感染症の流行地に出かけ、現地の状況を自分たちの目で見て研究を進めています。この10数年は、国内のさまざまな研究組織にとどまらず、世界保健機関(WHO)など国際機関や海外の研究組織との連携も強めています。

マラリアやデング熱のワクチン
困難だが開発し貢献したい

 研究テーマの一つであるシャーガス病は、「クルーストリパノソーマ」という原虫が感染することで引き起こされる、南米で流行している感染症です。5~10歳のころに感染すると、心臓や消化管の筋肉に原虫が住みつきます。しばらくは感染したことに気づきませんが、10年ほど経つうちに、約3割の感染者で心疾患が進行し、消化器疾患(巨大食道や巨大結腸)などを引き起こし、やがて亡くなってしまいます。

 クルーストリパノソーマはサシガメという昆虫が媒介します。夜、サシガメは血を吸うとともにトリパノソーマを含む糞を排泄します。若い人たちが虫に刺され、やがて病気で死んでいくのですが、住民はもちろん国にもお金がなく、十分な対策が立てられていません。トリパノソーマを殺す薬剤はありますが、シャーガス病のワクチンや治療薬はありません。こうしたなかで、私たちは重症患者の遺伝子解析を行い、またトリパノソーマが人の細胞の中でどんなことをしているのかを分子レベルで解析し、ワクチンや治療薬の開発に結び付けようとしています。

 同様に、マラリアやデング熱でも、遺伝子や免疫の解析を行っています。まだワクチンの開発には至っていませんが、遺伝子工学の発展はめざましく、将来、こうした感染症のワクチンや治療薬を開発できると確信し、努力を続けています。



この内容は、感染症ニュース 第7号(2016年6月発行)に掲載しています。