2016年7月


長崎大学病院小児科 森内浩幸教授

母子感染の予防対策や患者会の設立・運営にも貢献

 小児科は子どもの病気をすべて診る総合診療科です。5歳ぐらいまでの子どもは免疫力が弱いため感染症にかかるリスクが大きく、感染症への備えが重要です。

サイトメガロウイルスなどの
母子感染予防対策をけん引

 私は、これまで母子感染についての研究や対策に力を入れてきました。その一つがサイトメガロウイルスとトキソプラズマの母子感染対策です。

 サイトメガロウイルスは世界中どこにでもいるウイルスです。一方のトキソプラズマも、ありきたりの小さな単細胞生物です。ところが、サイトメガロウイルスの免疫のない妊婦さんが感染した場合には、おなかの赤ちゃんにも感染する危険があり、流産や死産の原因となったり、生まれた子どもの脳や聴力に障害が生じたりします。トキソプラズマも同様で、初めて感染すると流産や死産、子どもの脳や眼に障害が生じることがあります。

 どちらもありふれた病原体ですが、あまり知られておらず、赤ちゃんの感染を知って、はじめてその存在に気付くことが少なくありません。自分から子どもに感染が及んだことを知るとお母さんは大きな衝撃を受けますし、その後の療育などでも悩みを抱え続けます。そこで、そうした子どもや家族を支援するとともに、こうした感染症があることを広く知ってもらうために「トーチの会」という患者会を設立しました。私はその準備段階から顧問として関わってきました。

 トーチの会では、妊婦健診でトキソプラズマとサイトメガロウイルスの抗体検査を行うよう厚生労働省に働きかけるとともに、妊婦さんに注意喚起も行っています。数年後には、妊婦健診で抗体検査の公費助成が始まる見込みで、トーチの会の目標が一つ実現します。

HTLVの母子感染予防にも力
全国での検査実施を推進

 もう一つ力を入れているのがヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)の母子感染防止です。このウイルスは、有効な治療法のない成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)の原因になります。HTLV感染には地域性があり、長崎県は最もキャリア(感染者)が多い県の一つです。長崎大学の研究チームが、1984年に、このウイルスが母乳により子供に感染することを世界で初めて明らかにしました。

 ATLを防ぐ唯一の手段は母乳による感染を防ぐことです。長崎では、県や長崎大学、産科婦人科医会、小児科医会などが連携し、母子感染防止に取り組んできました。私も厚生労働科学特別研究事業「HTLV-1母子感染予防のための保健指導の標準化に関する研究」の研究代表者として予防対策保健指導マニュアルを作成するなど、長崎県で行われている感染予防が全国レベルで実施できるように力を入れてきました。

 一方、まだワクチンが普及していない国々では、先天性風疹症候群の問題が続いています。私たちはベトナムでその克服に取り組んでいます。今、世界中が注目するジカウイルスの母子感染の問題でも、国内での妊婦や胎児・新生児への対応策をAMEDの研究班の中で構築することになっていま す。今後も、母子感染を防ぐためにできることは、何でも続けていきたいと思います。



この内容は、感染症ニュース 第8号(2016年7月発行)に掲載しています。