2016年8月


アフリカ海外教育研究拠点長の一瀬休生教授

今、アフリカでしかできない熱帯医学を追求

50年以上にわたる
長崎大学のアフリカでの活動

 私が2010年7月から拠点長を務めるケニアプロジェクト拠点では、多くの研究者がそれぞれのテーマで研究を進めているほか、黄熱病やリフトバレー熱などの迅速診断法の開発を含む、感染症の流行をいち早く警戒するシステムの構築、健康な地域社会をつくる学童支援プロジェクトなどにも取り組んでいます。

 長大の研究者が初めてアフリカに足を踏み入れたのは、東アフリカ地域の感染症を調査する京都大学の学術調査隊に同行した1964年です。翌年には寄生虫病の調査のために、長大が単独でケニアやタンザニア、ウガンダに入りました。以来、半世紀にわたり、ケニアを拠点に、さまざまな事業を展開してきました。

 66年には、JICA(国際協力機構)の前身であるOTCA(海外技術協力事業団)から、ケニアのリフトバレー州立病院での医療協力を依頼され、75年までの10年間、医師や看護師、検査技師を派遣しました。その後、79年からケニア保健省との間で「伝染病対策プロジェクト」を開始。84年にはケニア中央医学研究所(KEMRI)との研究協力プロジェクトに移行しました。

 2005年にはナイロビのKEMRI構内に、念願の海外教育研究拠点を設置しました。国立大学法人独自の海外拠点設立は、日本の研究教育史上初めてでした。2007年には黄熱病などのウイルスを安全に取り扱える「BSL-3施設」も設置。現地で、病原体を分子レベルで解析できる体制にするなど、「今しかできない、アフリカでなければできない熱帯医学研究」を深める努力を続けています。

コレラ菌からロタウイルスへ
焦点は常に現実の問題解決

 私自身は、医学部卒業後に産婦人科に入局し、大学院では細菌学を研究しました。早産の原因の一つに羊膜の細菌感染があり、その研究をするためでした。その後、長崎大学の熱帯医学研究所で病原性細菌の研究を進めるうちに、日本ではまれになったコレラがアフリカでは依然猛威を振るい、多くの乳幼児が下痢症で命を奪われていることを知りました。それ以来、コレラ菌の研究に取り組み、アフリカでの現地調査も行ってきました。

 現代の日本では、下痢症は大した病気とは思われていません。医療機関が近くにあり、補液療法と抗菌薬を飲ませる治療法が確立しているからです。コレラ菌など細菌による下痢症そのものも減少しています。これに対し発展途上国では、下痢症はいまだに5歳以下の子どもの死因の第3位で、細菌性の下痢症が多くを占めています。一方でケニアの都市部では、先進国と同じくウイルス性の下痢症が増えています。なかでもロタウイルスが3~4割を占めているため、現在、実態調査とその対策に取り組んでいます。

 ロタウイルスは数個のウイルスでも感染するため、手洗いだけでは防げません。予防の切り札となるのはワクチンですが、ケニアでは動物に感染するロタウイルスと交雑したタイプが少なくなく、先進国で開発されたワクチンに効果があるか不明です。そのため、2015年から3年計画で、ワクチンの効果の検証を進めています。

 コレラ菌からロタウイルスに研究対象は変わりましたが、小さな子どもの命を救うという目標は同じです。現実の問題解決は熱帯医学の要です。



この内容は、感染症ニュース 第9号(2016年8月発行)に掲載しています。