2016年10月


医歯薬学総合研究科 感染分子解析学分野の西田教行教授

プリオン研究20年、研究成果を積み重ね世界をリード

世界に先駆けた多くの研究
髄液から病原体を早期発見

 私が研究対象としているのは「プリオン」というたんぱく質です。20年以上にわたり研究を続けてきましたが、その間に、世界に先駆けて異常プリオンの迅速な検出法や手術器具に付いたプリオンを直接検出する方法などを開発してきました。

 日本でプリオンが注目を集めるようになったのは、2001年に千葉県で初めてBSE(牛海綿状脳症)の牛が発生したのがきっかけでした。いわゆる「狂牛病」問題です。その原因とされるのがプリオンです。人間ではクロイツフェルト・ヤコブ病をはじめとする伝達性海綿状脳症(プリオン病)という病気になるとされています。実は、病気の原因とされるプリオンの正体はよくわかっていません。私たちは、プリオンが何者かを解明することを研究の最終目標にしています。

 プリオンたんぱくには、正常なものと病原性を持つものがあります。そして病原性のプリオンは二つの顔を持っています。一つは構造を変えるたんぱく質という顔です。たんぱく質は一度できれば構造が変わらないというのがそれまでの常識でしたが、プリオンは構造を変えていくのです。もう一つの顔は、ウイルスのように、人や牛などの個体から個体に伝搬する性質を持つことです。

 プリオンの正体を解明するために、これまでさまざまな研究を積み重ねてきました。例えば、1996年に「プリオンたんぱく遺伝子欠損マウス」という実験動物を使った研究結果を『Nature』誌に報告しました。正常なプリオンたんぱくを作り出す遺伝子を取り除いたマウス(遺伝子欠損マウス)では、神経細胞が死んでしまうことを世界で初めて明らかにしました。しかし、なぜ神経細胞が死ぬのかという理由は、いまだにわかっておらず、私たちの重要な研究テーマになっています。

 2011年には、腰椎の髄液から異常プリオンを高精度に検出する新手法を開発し、『Nature Medicine(電子版)』に発表しました。この手法により、患者さんの早期発見・診断につながると考えています。

治療法がなく、すべての発症者が死亡
治療薬の開発にも取り組む

 最近では、手術器具など金属表面に付着しているプリオンの状態を直接検出する「Wire-QuIC法」を開発し、今年4月、電子ジャーナル『Scientic Reports』に発表しました。角膜移植や硬膜移植、脳外科手術などの治療によってプリオンに感染し、発症した例が少なからず報告されています。我々の開発したWire-QuIC法により、手術器具などからの感染を防ぎ、医療の安全性向上につながることを期待しています。

 プリオン病は、人口100万人に対して年間1人ないし2人の新規患者が発生するという極めて珍しい疾患です。日本でも、年間およそ150人が発症していますが、ひとたび発症すると100%死に至ると言われ、有効な治療法がありません。

 こうしたなかで、私たちはプリオン病の早期発見、感染予防のためのプリオン検出法に加え、プリオン病の治療薬を開発しようと研究を続けています。プリオン病にプリオンたんぱくの異常が密接に関与することに着目して、岐阜大学と共同で治療薬の開発を進め、すでに新しい化合物を発見しています。これが治療薬として効果があるかについての研究も進めています。わが国のプリオン基礎研究の草分けとして、厚生労働省の「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究」や農林水産省の「培養細胞等を用いたプリオンの変換増殖機構の解明及び異常プリオン蛋白蓄積による病態の解析」などの国家プロジェクトにも参加してきました。これからも愚直に研究を積み重ねていきます。



この内容は、感染症ニュース 第11号(2016年10月発行)に掲載しています。