2016年11月


ウイルス学分野の森田公一教授。2013年からは所長として熱帯医学研究所を率いる。

ジカ熱やデング熱の感染を早期に封じ込めへ

 オリンピック・パラリンピックが開催されたブラジルなどの中南米で、昨年からジカ熱が流行しています。これはネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介するジカウイルスによる感染症です。一方、一昨年の夏には、わが国で70年ぶりにデング熱の国内感染者が発生し、全国で162名の感染者が確認されました。これもネッタイシマカとヒトスジシマカが媒介するデングウイルスによる感染症です。熱帯医学研究所のウイルス分野は、こうした昆虫やダニが媒介するウイルス(アルボウイルス)を研究しています。デング熱、ジカ熱のほか、日本脳炎や黄熱、SFTS(重症熱性呼吸器症候群)、ニパウイルス脳炎などの研究にも取り組んできました。

ウイルスを研究し続けて35年 ワクチンや診断薬を開発へ

 私が熱帯医学の道に進んだのは、高校時代に読んだ受験雑誌の記事がきっかけでした。「長崎大学には日本で唯一の熱帯医学の研究機関がある」と紹介されていて、面白そうだなと思いました。長大に入学してからは「熱帯医学研究会」の会員として熱研に出入りし、1981年に医学部を卒業した後は、多くの病原体の中からウイルスを選び、研究することになりました。以来35年間、ウイルスを研究しています。

 面白そうだと思って進んだ道ですが、アジアでは多くの子どもたちがデング熱に感染するうえ、その1%が重症化し、亡くなる子どもも少なくないことを大学院で学びました。子どもたちの命を救いたいという思いが、ここまで研究を続けてきた原動力です。

 私たちの研究グループでは現在、デングウイルスや日本脳炎ウイルスについて、その遺伝子の機能を解明して、ワクチンを開発するための基礎研究を行っています。これまでに、SARSや西ナイル熱などのワクチンを開発してきました。

 また、ウイルスの遺伝子やたんぱく質を短時間で検出する手法や、遺伝子工学的手法によって感染症を迅速に診断できる薬の開発なども行っています。特に、旅行者などによって日本に持ち込まれることが多いデングウイルスの診断薬の実用化を急いでいます。黄熱やジカ熱などのウイルスについても同様の研究を進めています。

自然との共生を念頭に、感染拡大を防ぎたい

 ワクチンや迅速診断薬があれば、感染症の大流行を防ぐことができます。ウイルスに感染しているかどうかを診断薬によって迅速に検査できれば、感染者を隔離し、感染経路を遮断するなどの対策を講じることができます。ワクチンがあれば、まだ感染していない人、特に子どもたちに接種してウイルスに感染しても発症しない、発症しても重症化しないようにできます。多くの命を救うことができるのです。

 病原微生物を地球上から消し去ることが感染症を征圧するという考え方がありますが、私はこの考え方には疑問を持っています。病原微生物を含む多くの微生物は自然の中に存在しています。病原微生物を撲滅することは自然そのものを破壊することにつながりかねません。

 豊かな自然を守り立つ、人間が微生物はと共生し、病原微生物による人的被害を最小限にすることが私たちの研究の最終目標です。そのことを念頭に、これからも努力を続けていきます。



この内容は、感染症ニュース 第12号(2016年11月発行)に掲載しています。