2016年12月

 

長崎大学の教育研究拠点があるケニアを訪ねた由井克之教授(後列右端)と熱帯医学研究所寄生虫学分野の濱野真二郎教授(後列中央)

マラリア原虫に対する新しい免疫機序を発見

 感染症は、病原体が体内で発育・増殖することで引き起こされます。一方で、からだには「免疫」という防御システムがあります。免疫がからだを守る仕組みを簡単に説明すると、血液やリンパ液の中にいる「T細胞」という細胞が司令塔として働き、自分のからだの成分とは違う異物や微生物を見つけて、それを排除するのです。私たちは、この免疫の仕組みと働きを詳しく研究しています。

マラリア原虫感染で免疫が抑えられる
仕組みを解明し、治療に道筋

 最近の大きな成果は、マラリア原虫がからだに感染すると免疫反応が抑えられ、マラリア原虫を排除することができなくなる仕組みを解明したことです。マラリア原虫に感染するとT細胞の働きが抑えられ、感染が長引いてしまうのです。また、マラリア以外の感染症にもかかりやすくなることもわかっています。免疫が抑制された状態になっているためで、私たちは、その原因の一つを解明しました。この仕組みを逆手に取れば、マラリア原虫を排除する治療法の開発につながる可能性があると考えています。

 実はT細胞は、病原微生物を排除するだけでなく、排除する力を抑える役割も担っています。感染を起こすような微生物は、からだの防御免疫応答を逃れて感染を起こす仕組みをもっています。そこで微生物を排除するためには、微生物が逃れられないように徹底的に攻撃する必要があります。このT細胞と微生物の戦いが激しくなりすぎると強い炎症反応が起こり、からだに悪影響を及ぼします。私たちのからだには、そのバランスを取る仕組みも備わっており、T細胞が主にコントロールしています。

 私たちは、マラリア原虫に感染したマウスを使って、この免疫を制御するT細胞がどんな働きをしているのかを研究してきました。その結果、マラリアに感染したマウスでは、これまでに知られているものとは異なる制御性T細胞があることを発見したのです。

免疫学の学問的な魅力に惹かれ
マラリアの研究につなげる

 新しい制御性T細胞(Tr27細胞)は「インターロイキン27」というたんぱく質を作り、このたんぱく質が微生物を排除するT細胞の増殖を抑えます。逆に言えば、マラリア原虫に感染したときに現れるTr27細胞の働きを抑えるとマラリア原虫に対する免疫応答が強くなる可能性があり、新しい治療法に結び付くと期待しています。

 私は、1981年に信州大学医学部を卒業後、同大大学院の寄生虫学教室で4年間、免疫学の研究に取り組みました。当時はT細胞が異物を認識する仕組みが解明されていませんでした。免疫系は自己と非自己を識別すると考えられており、どのようにして自己を認識するのか、自己とは何なのかということに魅力を感じました。その後、米ペンシルベニア大学で約10年間、免疫学を研究し、95年から長崎大学に赴任しました。それ以来20年以上、マラリアの研究を続け、感染が慢性化する理由を追究するなかで、Tr27細胞にたどり着きました。この成果が、マラリアはもちろんのこと免疫関連の他の病気の治療にも広く応用されることを期待しています。

 

この内容は、感染症ニュース 第13号(2016年12月発行)に掲載しています。