2017年1月


医歯薬学総合研究科 リハビリテーション科学講座の小関弘展教授

骨や関節の手術後感染ゼロを目指す

 整形外科は、骨や関節、靭帯など「運動器」の病気やけがの治療をする診療科です。手術やリハビリテーションなどによって、運動機能の回復を図り、患者さんが元通りの生活を送れるようにすることが仕事です。ところが、清潔な手術室で注意深く手術をしても、一定の頻度で手術した部位に感染症が起きてしまいます。

骨や関節は血液も薬も届きにくい
一度感染すると長期入院になることも

 整形外科手術の感染で特にやっかいなのは、骨や関節などの組織に血行が乏しいということです。流れる血液量が少ないと白血球など細菌をやっつける役目の細胞や抗菌薬などの薬が届きにくいので、再手術をして膿を出すなどの処置が必要になります。

 術後に何らかの感染が起こると、1~2週間のはずの入院期間を延ばして治療しなければなりません。特に、体内に埋め込んだインプラント(プレートやワイヤー、人工関節など)の周囲に感染が起こると、細菌はバイオフィルムと呼ばれる強い防御壁を作って自分たちを守ろうとします。そのため、副作用の危険性がある強いお薬を使いながら、インプラントを一度取り除いて感染した骨や軟部組織を掃除する手術が必要となります。そして感染が鎮静化できた段階で、再び元の病気に対してインプラントを埋め込む手術を行うことになり、半年~1年という長期入院になることも少なくありません。患者さんには発熱や疼痛などの身体的苦痛と精神的ストレスが加わるだけでなく、退院後の生活設計にも大きな狂いが生じます。また、ご家族も看病などの肉体的負担や経済的負担も増えてしまいます。

 整形外科分野における術後感染症の発生率は0.2~17.3%と報告されています。私自身は、年200~300件の手術を20年ほど行ってきました。常に細心の注意を払ってきましたが、それでも1例だけ術後感染症を起こしたことがあり、当時は眠れない日々を過ごしました。そこで、整形外科医として、術後感染症を防ぐために何ができるかという想いで研究を始めました。

細菌を付けない、増やさない、
やっつける新しい材料を開発

 インプラントには、チタンやステンレス、コバルトクロムなどの金属、合成樹脂、セラミックなど、いろいろな材料が使われます。まず、術後感染症の起炎菌で最も多いブドウ球菌を使って、感染が起こりやすい材料の特性を調べました。その結果、表面のでこぼこ具合と濡れ性が関係していることがわかりました。

 しかし、それぞれの材料は用途に応じた特性が生かされているので、すべてのインプラントを感染が起こりにくい材料に代えることは不可能です。そこで次に、材料の表面に、感染に強い処理を施すことを検討しました。注目したのは酸化チタンです。酸化チタンは太陽光や紫外線などが当たると、その表面で強力な酸化力が生まれ、接触する汚れや細菌などの有機物を分解・除去することが知られていたからです。

 インプラントの材料として使われる純チタンとステンレス鋼の表面を酸化チタン処理し、細菌がどれだけ付着・繁殖するかを検討しました。その結果、酸化チタンに紫外線や蛍光灯の光を当てたものでは、生きている細菌の数が大きく減り、細菌の繁殖も抑えることが分かりました。

 これらの研究結果から、インプラント表面を酸化チタンで処理すれば、細菌が付着しても手術室内の光刺激によってその場で殺菌されるので、術後感染の発生率を下げることができると考えられます。術後感染に苦しむ患者さんを少しでも減らすことが、研究者である私に課せられた責務と思っています。



この内容は、感染症ニュース 第14号(2017年1月発行)に掲載しています。