2017年2月


長崎大学病院 感染制御教育センター看護師の寺坂陽子さん

病院内だけでなく地域の感染予防に東奔西走

手指消毒の地道な徹底により
MRSA感染を減らす

 私は、長崎大学病院の感染制御教育センターに所属する「感染症看護専門看護師」です。感染症は、いつどこで発生するかわからない上、発見や対処が遅れることで感染拡大を招く恐れがあります。感染症看護専門看護師は、感染症の発生を早い段階で発見し、拡大を防ぐためのあらゆる知識を修得した上で、病院や地域における個人や集団の感染予防、感染症が発生したときの適切な対策、患者さんへの高度なケアの提供を行います。

 感染症看護専門看護師は、2016年末で全国15都道府県に44人しかいません。長崎県では私1人、九州全体でもほかに福岡県に3人いるだけです。従って大学病院だけでなく広く長崎県の感染対策に取り組んできました。

 感染制御教育センターは、「感染制御」「感染疫学調査」「感染症と感染制御の教育」という3つの役割を担っています。感染制御とは、病院内での感染の発生を抑え、発生した場合には早期に発見し対応することです。そのためにも病院の全職員に感染症と感染制御の教育を行っています。

 院内での感染を予防するために、感染しているかどうかにかかわらず、すべての患者さんを対象にした「標準予防策」を行います。これには10項目あり、その筆頭が手指の消毒です。医師や看護師が患者さんに接するときには、接する前と後にアルコール手指消毒剤で手を消毒することが必須です。しかし、100%できている訳ではありません。私は、当センタースタッフとともに、職員一人ひとりの感染予防に対する意識を向上させ、行動を変えるために地道な活動を行ってきました。

 アルコール手指消毒剤の適正な消費量の目標値を設定したのもその一つです。例えば、看護師は、1日3回は入院患者さんのもとを検温等で訪問しますから、最低でも患者さん一人に対して1日6回の手指消毒を実施します。医師は1日1回の回診を行うと2回の手指消毒が必要です。こうして目標とする手指消毒回数を設定しました。そして、実際の消毒剤の使用量などから病棟ごとの手指消毒回数を算出し、毎月、結果を提示してきました。同時にアルコール手指消毒による効果の説明と、適切な消毒方法の実践教育を続けてきました。その結果、手指消毒回数が増加し、院内でのMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症の発生率が下がってきました。

標準予防策の定着に努力
地域全体の感染対策も重要

 標準予防策には、このほかに手袋やガウンを適切に着脱する、咳エチケットを徹底するなどの項目があります。これらを日常業務の中ですべて完璧に実行するのは難しいのですが、引き続き教育と実践を通してレベルアップを目指しています。

 地域の感染対策も重要です。最近は、病院の機能分化や連携により、患者さんの入退院が多くなっています。一施設だけでなく、日ごろから地域全体で感染対策に取り組むことが必要です。長崎大学病院では2007年に「長崎感染制御ネットワーク」を設立し、地域の医療機関からの院内感染対策に関する相談に対応してきました。感染対策担当者養成のための講習会の開催や、要望に応じて私たちが直接その病院に出向き、現場の感染対策の改善を支援する活動も行っています。このような活動を通して長崎県全体の感染対策の底上げに貢献したいと考えています。



この内容は、感染症ニュース 第15号(2017年2月発行)に掲載しています。