2017年3月


モイメンリン准教授。デング熱の研究で国内外から評価が高まっている。

デング熱の実態解明とワクチン開発に取り組む

マレーシアから日本に来て15年
デング熱などについて継続的に研究

 私は2002年にマレーシアプトラ大学を卒業。現地で1年間研究員を務めた後に文部科学省国費留学生として渡日しました。以来、デングウイルスをはじめとする、蚊が媒介するウイルスについて研究を続けてきました。

 デング熱に興味を持ったのは、私自身が大学在学中にデング熱にかかり、約1週間、高熱と痛みに苦しんだことがきっかけです。マレーシアでは年間約10万人がデング熱に感染し、子どもを中心に100人前後が亡くなっています。世界では毎年約4億人が感染しています。

 そこで、大学卒業後はデング熱について研究しようと決意し、日本の筑波大学大学院に進んで、まず分子生物学の手法を身に付けました。博士課程の研究は国立感染症研究所のウイルス第一部で行いました。デング熱の研究を30年間続けてきた部長の倉根一郎先生(当時、現所長)の指導のもと、デング熱の発症と防御メカニズムの解明に取り組みました。その後も感染研の厚生労働技官としてデング熱の研究を続ける一方、黄熱やジカ熱、日本脳炎など蚊が媒介する感染症について、世界保健機関(WHO)などと共同研究を行いました。そして、2015年1月に熱帯医学研究所の准教授として赴任しました。

新しい検査法とモデル動物を開発
『文部科学大臣表彰若手科学者賞』受賞

 デングウイルスが見つかってから約70年経ちましたが、まだワクチンは実用化されていません。原因はいくつかあります。まずデングウイルスが感染すると体のなかでどういう免疫反応が起きているのか、特に重症化してデング出血熱になるメカニズムがよくわかっていませんでした。そのためワクチンの候補があっても、それが効果的かどうかを判定することが困難でした。さらにワクチン開発に欠かせないモデル動物が存在しませんでした。しかし、私たちの研究から、そうした壁を乗り越える可能性が見えてきました。

 デングウイルスは1~4まで4つの「型」があります。たとえば1型のウイルスに感染すると1型ウイルスの免疫は獲得できますが、それ以外の型のウイルスに対しては、免疫はほとんどつきません。逆に、異なる型のウイルスに感染すると重症化することがあります。これは、1型ウイルスの抗体がほかの型のウイルスと結合し、それが免疫に関わる細胞を攻撃するためです。

 私たちはこのメカニズムを詳細に検討し、ある型のウイルスの抗体を測定するだけでなく、ほかの型のウイルスと結合すると感染力がどれだけ高くなるかを同時に測定する方法を開発しました。これによりワクチン接種によって、どの型のウイルスにかかりにくいか、どの型のウイルスだと重症化する可能性があるかを調べることができるようになりました。また、マーモセットというサルの一種を、ワクチンの効果を調べるためのモデル動物とすることにも成功しました。

 こうした研究成果を評価していただき、昨年、文部科学省表彰若手科学者賞を受賞しました。これからもデング熱などの研究を進め、デング熱に悩む多くの人を救いたいと思います。



この内容は、感染症ニュース 第16号(2017年3月発行)に掲載しています。