2017年6月


第2回歯周病細菌国際会議にて。左が第3回主催者のEric Reynolds教授(メルボルン大学)、中央が第2回主催者のMike Curtis教授(ロンドン大学クイーン・メアリー校)。

歯周病の原因菌の研究で世界をリード

 口の中には700種類以上の微生物がいます。この中には、からだに悪影響を及ぼす可能性のある病原微生物もいます。歯に関係する細菌としては「ミュータンス菌」がよく知られています。これは、虫歯の原因となる細菌で、口の中の糖分を分解して酸を作り出し、歯の成分のリン酸カルシウムを溶かします。私が主に研究してきたのは、歯周病の原因となる「ポルフィロモナス・ジンジバリス(以下、ジンジバリス菌)」という細菌です。

ジンジバリス菌の“悪さ”を
遺伝子レベルで初めて解明

 歯周病は歯周病菌による感染症です。歯周病に関わる細菌はたくさんありますが最も重要なのがジンジバリス菌です。

 歯と歯茎の境目には深さ1~2mmの歯肉溝があります。歯肉溝の掃除をきちんとしないと、そこに歯垢(歯周プラーク)がたまり、歯茎が炎症を起こして赤くなったり腫れたりします。歯垢は食べ物のかすではなく細菌の塊です。その細菌から分泌されるものが炎症を起こすのです。炎症が起きても痛みがほとんどないため放置しがちですが、歯肉溝が深くなると(歯周ポケット)、歯茎の炎症が悪化し、歯周病菌がさらに増え、歯を支える歯槽骨も破壊されて歯がぐらぐらになります。

 ジンジバリス菌はミュータンス菌と違い、血液に含まれるアルブミンやグロブリンなどのたんぱく質が栄養源です。そして「ジンジパイン」という酵素を分泌して、歯肉のたんぱく質を分解するなどの“悪さ”をします。

 私たちは2010年に、ジンジバリス菌が菌体内で作った「ジンジパイン」をどうやって菌の外に運び出すのか、というメカニズムを世界で初めて解明しました。細菌がたんぱく質を分泌する機構はそれまで8種類見つかっていましたが、私たちの発見した機構は全く新しいもので、現在では「9型分泌機構」と呼ばれています。この機構を解明するためにジンジバリス菌の遺伝子を解析し、11個の遺伝子がジンジパインの分泌に関連する分子を作ることを見出したのです。

歯周病の理想的な治療薬開発へ
常に先頭に立って研究を進める

 ジンジパインの分泌機構が解明され、それに関連する遺伝子群が明らかになったことで、ジンジパインの分泌機構だけをブロックする薬剤の開発の可能性が見えてきました。同じ分泌機構を持つ歯周病菌はほかにもあるので、歯周病の予防と治療を大きく変えられると考えています。

 さらに、ジンジバリス菌が持つ線毛の研究も進めています。線毛はたんぱく質がたくさん結合したもので、多くの細菌の表面に存在し、細菌の付着や病原性に関与します。ジンジバリス菌も、線毛によって歯周ポケットの中でほかの細菌と塊を作っています。私たちはジンジバリス菌の線毛が、既に解明されている線毛とは異なる作られ方をすることを明らかにしました。そして新型の線毛であることから「5型線毛」と名付けられました。5型線毛に分類される線毛は主要な腸内細菌も持っていることが分かりました。

 2012年には、海外の研究者たちと「歯周病細菌国際会議」を立ち上げました。第1回は長崎で開催し、私が主催者を務めました。今年5月には、オーストラリアで第3回会議を開きました。今後も国際的に注目される先端研究に挑みます。



この内容は、感染症ニュース 第19号(2017年6月発行)に掲載しています。