2017年8月


医歯薬学総合研究科 消化器内科の中尾一彦教授

B型・C型のウイルス肝炎の治療と予防に尽力

 私は1983年に長崎大学医学部を卒業して以来、一貫して消化器内科の医師として診療と研究を続けてきました。そのなかでもウイルス肝炎などの肝疾患を専門としています。ウイルス肝炎は、肝炎ウイルスの感染によって引き起こされる感染症です。ウイルスの種類は、A型からE型まであり、A型とE型は主に水や食べ物を介して感染し、B型、C型とD型は主に血液や体液を介して感染します。私たちにとって特に問題になるのは、B型とC型のウイルスによる肝炎です。放置すると肝硬変、肝がんへと進む恐れがあるだけでなく、ほかの人にうつる可能性もあるからです。

 私が医師になった当時は、これらのウイルスの正体がようやく分かり始めたころでした。

B型肝炎の母子感染はほぼ制御
性行為などによる感染は依然多く

 九州は歴史的にB型肝炎の患者さんが多く、私が医師になった頃には既に長崎大学第一内科消化器グループが、離島地区での肝炎調査、予防や検診に長年に渡り取り組んでいました。調査開始当初は、肝炎を引き起こすウイルスが解明されていませんでしたが、1964年に、米国で輸血を受けた血友病患者の血清の中に、オーストラリアの先住民の血清にある抗原と同じものがあることから「オーストラリア抗原」と名付けられました。のちにこれがB型肝炎ウイルスの抗原と同じだと明らかになり、離島地区の肝炎の多くはB型肝炎ウイルスが原因だと判明しました。

 B型肝炎ウイルスは、母子感染によって感染が続くことがわかり、国立長崎中央病院(現長崎医療センター)の矢野右人臨床研究部長(当時、後に病院長)はそれを遮断するための抗HBヒト免疫グロブリンやワクチンの臨床応用を全国に先駆けて行いました。このように長崎でのウイルス肝炎の研究は50年近い歴史を持っています。

 日本では1986年以降、ウイルスの母子感染による肝炎発症を予防するため、新生児への抗HBヒト免疫グロブリンとワクチンの投与が公費でできるようになりました。これにより母子感染はほぼ制御できるようになり、長崎での取り組みが貢献したと考えています。しかし、成人になってからの性行為などによるウイルス感染は依然多く、性行為感染症として問題になっています。これに対しても2016年10月からはすべての新生児に公費でワクチンを接種できるようになりました。

劇的に変わったC型肝炎の治療
飲み薬でウイルスの大半を駆除

 B型肝炎ウイルス発見後も輸血後の肝炎はあまり減少せず、新たな発見が待ち望まれていました。1989年になってウイルスがようやく同定され、 C型肝炎ウイルスと名付けられました。同時にC型肝炎ウイルスの検査方法が確立し、以来、輸血による肝炎ウイルス感染はほぼなくなりました。

 1992年から、C型肝炎にはインターフェロンという抗ウイルス薬の注射を基本とした治療が行われるようになりました。しかし、インターフェロンが効かない患者さんも多く、ウイルス駆除に成功する人は限られていました。インターフェロンの副作用も大きな問題でした。

 その後、副作用が少ない飲み薬が開発され、わが国でも2014年から使えるようになりました。現在では、わずか3カ月の内服治療で、96~98%の患者さんでウイルスを駆除できるようになりました。今後は、感染に気づいていない人(キャリア)を健診などで見つけ、内服薬治療によりウイルスを駆除し、C型肝炎撲滅に繋げたいと考えています。



この内容は、感染症ニュース 第21号(2017年8月発行)に掲載しています。