2017年10月


研究のために出かけたザンビアで、移動に使っていたクルマに生じた故障を通りすがりの若者たちが見事なチームワークで手早く修理してくれた。「人の価値は人(他人)のために何ができるかで決まる」と再認識した一日だった。

国境のない感染症に素早く確実に対処できる人材を育成

 2015年4月、大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科が設置されるのに伴い、東京大学から着任しました。この研究科は、それまであった「医歯薬学総合研究科熱帯医学専攻」と「国際健康開発研究科」を発展的に統合したものです。いずれもあまり馴染みのない言葉と思いますので、まず、何を目指しているかをご説明します。

人も物も感染症も国境を越える
地球規模で健康の課題を解決

 従来の熱帯医学専攻は、2年以上の実務経験のある医師を対象とする1年間の修士課程で、熱帯地域で遭遇する、さまざまな医学的問題を学び、解決する能力を養うことを目的としていました。一方、国際健康開発研究科は、開発途上国で、現地の人々とともに健康状態の改善や健康増進に貢献する人材の育成を目的としていました。いずれも、長崎大学が長年取り組んできた、感染症分野の研究や国際協力を発展させたものでした。

 しかし現在は、自然や社会環境に関する諸問題を地球規模で考えなければならない時代です。ヒトもモノも感染症も国境を越えるようになり、“グローバルヘルス”という新たな概念の下で病気や健康についての対策を考える必要がある。そのためには、「現場に強い、危機に強い、行動力のある」人材の育成が必要です。そこで設置されたのが「熱帯医学・グローバルヘルス研究科」です。

 研究科は、「熱帯医学コース」「国際健康開発コース」「ヘルスイノベーションコース」の3コースからなります。約50人の教員と各学年約40人の学生は多国籍で、授業はすべて英語です。それぞれの出身地の観点から世界の健康問題を鳥瞰し、グローバルな視点からそれぞれの地域における感染症や健康に関する問題を捉え直し、解決に向けて行動できる人材の育成を目標とします。熱帯医学の分野では、ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院と連携しました。また、東京の国立国際医療研究センターにサテライトを置き、関東圏の社会人を対象に、遠隔講義を開始しました。

寄生虫の代謝の研究が基盤
治療薬のない感染症に取り組む

 私は東大の薬学部出身です。感染症とはあまり縁がなかったのですが、大学院に進んでから、大腸菌の代謝を研究しました。大腸菌は酸素のありなしで呼吸経路を切り替えて環境変化に対応します。そのメカニズムを調べたのです。その後、順天堂大学の大家裕教授(当時)から「回虫などの寄生虫も酸素の有無で代謝を変える」という話を聞き、順天堂大学に移りました。

 そこからさらに、JICA(国際協力機構)の医療協力プロジェクトで1年半、南米のパラグアイに派遣されました。現地ではシャーガス病やリーシュマニアなど治療薬のない感染症の患者に毎日のように出会いました。この経験が転機になりました。帰国して数年後に東大医科学研究所に移り、寄生虫による感染症の研究を続けました。

 その後、東大の医学系研究科に移り、18年間、教育と研究を行ってきました。その経験も生かし、世界に通用する人材を送り出すことが私の役割です。一方で、寄生虫の研究も進めています。