2018年1月


ウガンダ北部アチョリランドの村にて。河川盲目症に関連するてんかんに苦しむ子どもや家族を日本の研究者が支援している。

感染症のリスクを減らす環境づくりを追究

集団全体の健康を考えるエコヘルス
病気だけでなく“健康の原因”を研究

 私は、開発途上国の人々が健康に暮らせることを目指して、フィールド研究を続けてきました。住民の健康状態や衛生環境を調査し、その改善のために何が必要なのかを、現地の人たちと一緒に考えてきました。感染症対策もそのなかの重要な項目です。

 感染症に限らず、近年の医療では、ある病気についてその原因をみつけること、その原因を取り除くことが重視されています。例えば、結核の原因は結核菌であり、結核菌に感染しないようにすること、感染しても症状が重くならないようにすることが結核への備えです。しかし、高血圧や糖尿病のような生活習慣病(慢性疾患)の原因は一つではありません。食事、運動、喫煙、飲酒、そして家庭環境や社会環境など様々な要因が複雑にからんで病気になることが分かってきました。

 感染症も同じで、多くの先進国では結核菌に感染しても症状が出ない人が多く、結核菌が周囲に広がることもまれです。一方、結核がまん延している開発途上国では、栄養状態や衛生環境がよくないこと、さらに国力や貧困など社会的な背景も結核を広げる要因になっています。

 病気の原因を突き止めるだけでなく、環境や社会構造も含めて“健康で暮らせる要因(原因)”を追究することは、先進国でも開発途上国でも重要です。病気や健康の原因が複雑に関わることで健康問題になり、それがほかの健康問題の原因にもなるというシステムシンキングに基づいた考え方を「エコヘルス」といいます。

 先進国では、栄養状態や衛生環境が改善され、必要な医療が受けられる体制が整っています。その結果、高齢者が増加し、医療需要も増えたことで、医療費が増大し、それをどう負担するかという社会的問題になりつつあります。エコヘルスは、そうした問題も含めて国民全体の健康を考えていきます。

様々な分野の研究者と協働して
「顧みられない熱帯病」に向き合う

 熱帯医学・グローバルヘルス研究科は、開発途上国で現地の人々と一緒に健康増進に貢献する人材を育成することを目的としています。その国の環境・社会・暮らしと住民の健康を一体としてとらえるエコヘルス研究が重要になります。

 健康問題は複雑で、一つの専門分野の研究者だけでは課題を解決できません。例えば私の専門は「人類生態学」という分野です。住民がどういう暮らしをしているのかを、食事内容とともに、血液や尿、髪の毛、唾液などからも調べます。さらに、人口構造、世帯構成、平均寿命や死因などを調べ、実態を把握します。

 これにより健康問題が明らかになっても、解決方法は得られません。健康を脅かす原因は何か、必要な医療や薬は何か、政治体制や産業の発展など、経済・社会面に問題はないかなど、幅広い分野の研究者と協働して問題解決に取り組む必要があります。

 特に、開発途上国の感染症で問題となっている「顧みられない熱帯病」は、貧困が背景となって、それにより病人が増えて地域や国が疲弊し、それがさらなる貧困につながるという悪循環になっています。開発途上国の健康水準を高めることで、感染症も含めた病気になるリスクを減らす活動に、今後も取り組んでいきます。



この内容は、感染症ニュース 第25号(2018年1月発行)に掲載しています。