2018年2月


パンデミックインフルエンザに備える

 2017年4月、新たに設置された感染症共同研究拠点の拠点長に就任しました。北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター統括・特別招聘教授を兼任しています。

 私は、1969年に北海道大学大学院獣医学研究科修士課程を修了したのち、武田薬品工業で感染症、特にインフルエンザワクチンの開発研究に携わりました。76年に北海道大学獣医学部に任用されて以来、感染症の克服に向けた研究と教育に専念しています。

 なかでも、インフルエンザウイルスの生態、病原性、鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ対策、季節性インフルエンザワクチンと治療薬の開発研究は、40年にわたり続けています。インフルエンザが人獣共通感染症であること、インフルエンザウイルスの自然宿主がカモで、その大腸で増殖したウイルスを糞便とともに排泄すること、ウイルスは、カモが巣を営むアラスカやシベリアの湖沼水中に、冬には凍結保存されて存続していること、パンデミックウイルスは人のウイルスとカモのウイルスに同時感染した豚の呼吸器で生まれる遺伝子再集合ウイルスであることなどを明らかにしました。人獣共通感染症は、根絶できないので、その被害を最小限に止める、先回り対策によって克服しなければならないことを提案し、これを進めるために、北海道大学に人獣共通感染症リサーチセンターを創設していただき、インフルエンザをはじめ人獣共通感染症を克服するために、多くの内外の研究者と共同研究を行ってきました。2017年には、その成果を認めていただき、ウイルス学研究および国際貢献に対し、文化功労者として顕彰していただきました。

インフルエンザをめぐる多くの誤解
うつりやすさと症状の重さを混同

 インフルエンザについては、メディアから流れる情報に誤りが多く、さまざまな誤解が広がっています。例えば、「高病原性鳥インフルエンザ」は鶏に対して病原性が高い鳥の病気で、人の病気ではありません。「新型インフルエンザ」もおかしな言葉です。インフルエンザは紀元前から流行を繰り返してきた病気で「、新型」も「旧型」もないのです。

 ウイルスの病原性が高いとうつりやすいという考えも誤解です。ウイルスの増殖に対する体の反応が病気の症状です。体内で急激に増殖するウイルスは重い症状を引き起こします。このようなウイルスを病原性が高いといいますが、うつる力(伝播性)とは別物です。政府は「わが国で“新型”インフルエンザが発生したら最大64万人が死亡する」という被害想定を発表していますが、そんな事態にはなりません。

季節性インフルエンザへの備えが重要
100倍効果の高いワクチンを開発

 実際、2009年に「H1N1ウイルス」によるインフルエンザがわずか3カ月で世界中に広がりました。しかし、15カ月間に死亡したのは世界で2万人にも満たず、季節性インフルエンザによる被害の100分の1程度でした。つまり、季節性インフルエンザに備えることこそが重要なのです。

 季節性インフルエンザの発症予防、症状緩和にはワクチンが有効ですが、わが国を含む世界の現行ワクチンは、発熱などの反応をほとんど起こさない代わり、力価(ワクチンの効果)があまり高くありません。

 私たちは、今のワクチンより効果が100倍高く、副反応を起こさず、しかもコストの低いワクチンの開発を進めています。10倍に薄めても、現在のワクチンより10倍強いワクチンができます。

 インフルエンザに限らず、ワクチンと治療薬の開発には、病原ウイルスを安全に研究できる封じ込め施設が必須です。感染症共同研究拠点で全国の研究者と共同で開発を進める体制を1日も早く組み、さまざまな感染症の発生に備えることが使命と考えています。



この内容は、感染症ニュース 第26号(2018年2月発行)に掲載しています。