2018年6月


熱研ケニア拠点でのフィールドワークの合間に、現地の子どもたちやスタッフと(中央列左の黄色いシャツが金子教授)

マラリア原虫の感染の仕組みを分子レベルで解明

 私たちの主な研究対象はマラリアです。マラリアはマラリア原虫という寄生虫が蚊を媒介して人に感染し、引き起こす病気で、世界の熱帯・亜熱帯で広く流行しています。WHO(世界保健機関)の推計では2016年のマラリア患者は2億1600万人、死亡者が44万5000人でした。

生き物としてのマラリア原虫に注目
マラリア原虫の赤血球への侵入方法を研究

 私は学生時代に訪れたケニアで、マラリアが重大な感染症であることを痛感し、将来は海外で熱帯病に関する活動に携わりたいという思いを抱いていましたが、開業医3代目として医者になるように育てられ、大学卒業後に整形外科の道に進みました。しかし、縁あって出身大学の大阪市立大学の寄生虫学の研究室に入り、ベトナムでマラリア調査等を行いました。その後、米国立アレルギー・感染症研究所に留学中から、生き物としてのマラリア原虫に興味を抱くようになり、帰国後も一貫してマラリアの研究を行ってきました。

 人に感染して問題となるのは、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫などです。蚊を媒介して血液の中に入った原虫は、肝臓の細胞に到達してから分裂を開始します。そして数千個に増えると肝細胞を破壊して、再び血中に入り、今度は赤血球に侵入します。そして赤血球の中で数個から数十個に増えると赤血球を破壊して血中に出て、新しい赤血球に次々と侵入していきます。

 私たちは、ある種のマラリア原虫は、血中に出てから次の赤血球に侵入するまで約1分間を要することを発見しました。この過程で、マラリア原虫は赤血球侵入に必要なさまざまな物質(分子)を準備していると思われます。それらの物質がわかれば、原虫の赤血球への侵入を防ぎ、原虫の増殖を抑える方法がわかると期待し、研究を進めています。

謎の多い“休眠体”の解析や
山羊マラリア・モデルの提案も

 熱研の原虫学分野の教授に着任してからは、生命の危険は少ないですが、発熱などで体力の消耗が激しい三日熱マラリアの研究も始めました。三日熱マラリアは、感染した原虫の半分ほどが肝臓で休眠し(休眠体)、一度は治っても休眠から目覚めた原虫により再びマラリアの症状が出てきます。マラリアの治療薬は血中のマラリア原虫には効果がありますが、休眠体には効きません。しかし、三日熱マラリア原虫は実験室内での培養が困難なうえ、安価な動物感染モデルもないため、研究が進んでいません。私たちは、三日熱マラリア原虫が感染できる特殊なネズミのモデルを用いた休眠の仕組みの解明に向けた研究や、三日熱マラリア原虫と同様に休眠体を持つサルのマラリア原虫を用いた休眠体診断キットの開発に取り組んでいます。

 また、ここ数年は、水牛や山羊に寄生しているマラリア原虫を対象とした研究を開始しました。これらの原虫は数十年前に報告されたまま、私たちの最近の報告まで、すっかり研究者に忘れられていましたが、ひと昔の研究報告から、偶蹄類に寄生するマラリア原虫は休眠体になる可能性があると考えています。これらのマラリア原虫を実験動物を使って維持できれば、マラリア原虫の休眠体の安価なモデルとなると期待しています。

 マラリア原虫の生き物としての新しい側面を見つけて薬やワクチン、診断キットなどの開発に結びつけ、マラリア撲滅に貢献したいと思います。



この内容は、感染症ニュース 第29号(2018年6月発行)に掲載しています。