2018年10月

 

ケニアの小学校での住血吸虫の現地調査で、小学生に囲まれる濱野教授。

寄生虫による顧みられない感染症に向き合う

研究対象は4つの寄生虫疾患、まず現地での実態調査を行う

 感染症は貧困に喘ぐ熱帯地域で、その自然・社会環境と相まって猛威を振るっています。私が研究対象としている寄生虫疾患も、長きにわたり人々の健康を損ない、亡くなる人も少なくありません。それによる社会経済的な損失は甚大です。

 現在、主に研究を進めている寄生虫疾患は、住血吸虫症、リーシュマニア症、アメーバ赤痢、土壌伝播蠕虫症(どじょうでんぱんぜんちゅうしょう)です。住血吸虫の感染者は世界全体で約2億1800万人、土壌伝播蠕虫症は約20億人もいます。にもかかわらず、これらの寄生虫疾患は、あまり関心が向けられておらず、未だ十分な対策が立てられていない「顧みられない熱帯病」なのです。

 住血吸虫は、川や湖などの淡水に生息する巻貝を中間宿主として感染します。病気が進むと下痢や血便・血尿などを引き起こし、放置した場合、長期にわたり肝臓や泌尿生殖器などを傷めてしまいます。私はケニア中央医学研究所(KEMRI)と共同で研究を進めており、2012年にはビタ地区とクワレ地区の14の小学校で健康調査を実施しました。その結果、ビタ地区での感染率は平均で75%、多い小学校だと99%と驚くほどまん延している実態が明らかになりました。

 2014年からは、子どもたちを定期的にモニターする仕組みを作り、長期的に感染の実態を把握し、対策を立てています。現地調査を進める一方で、研究室では、住血吸虫だけが持つ特殊なたんぱく質を探し、それを基に新しい診断法の開発などを進めています。

 土壌伝播蠕虫症は、回虫、鉤虫(こうちゅう)、鞭虫(べんちゅう)などの蠕虫(ぜんちゅう)の卵や幼虫に汚染された不衛生な食物を食べることなどにより感染し、人の腸管に成虫が寄生します。2017年に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から支援を受ける「DeWorm3」(腸から虫を取り除くという意味)という国際的研究を、ロンドン自然史博物館と始めました。

現地で得られた知見を基に、研究室でワクチン開発に取り組む

 このように寄生虫疾患の対策を立てるには、現地の実態を知るとともに、研究室での分子、遺伝子レベルでの研究を行うことが重要です。

 例えばリーシュマニア症については、バングラデシュ国際下痢症研究センターや大分大学と共同で、バングラデシュにおける現地調査を実施しています。一方、研究室ではリーシュマニア症の感染防御機構を分子レベルで解明し、遺伝子編集によるワクチン開発を行っています。リーシュマニア症はサシチョウバエが媒介する寄生虫疾患で、熱帯、亜熱帯、南ヨーロッパなど、90カ国以上で約1200万人の感染者がいると推計されています。それだけにワクチンの開発は重要です。

 またアメーバ赤痢についても、動物モデルでの研究で、感染防御機構を解明しつつあります。わが国でも年間1000人程度の患者が発生しており、感染を防ぐことができるようになれば、わが国へも貢献できると考えています。

 私は、熊本大学医学部を卒業後、在学中から興味を持っていた熱帯医学の道に進むべく、九州大学の研究室に入りました。そして、ワクチンや新規診断法の開発が重要と考え、九大の生体防御医学研究所で病原体排除や病態形成に関わる宿主の防御・免疫応答機構について学びました。

 その後、米国留学などを経て、2009年5月に熱帯医学研究所の教授に着任しました。今後もこれまでの経験を生かし、現地と研究室の双方向から寄生虫疾患にアプローチしたいと考えています。



この内容は、感染症ニュース 第30号(2018年10月発行)に掲載しています。