2018年12月

米国の研究施設で実験中の櫻井氏


西アフリカを中心に、1万1000人以上の死者を出した「エボラウイルス病」櫻井氏は2012年から米国の研究機関で、エボラウイルス病に対する治療薬の研究に携わってきました。長崎大学の感染症共同研究拠点に赴任したのを機に、さらに広範な種類のウイルス研究を目指しています。

高血圧に対する薬がエボラウイルスの感染を阻害

ーエボラウイルスの研究を始めたきっかけは

 京都大学のウイルス研究所に入所し、エイズの原因ウイルスなどの研究を始めたのがきっかけです。
大学に入った頃は物理学を専攻していたので、全くの”畑違い”でしたが、『ウイルスが生物を進化させた』という学説を知って以来、人類とウイルスとの関係に興味を持ち続けていました。

 『患者さんを救いたい』という強い思いを持つ研究者が周囲に多かった影響で、私も徐々に薬剤研究に軸足を置くようになりました。せっかくなら、特効薬が見つかっていない、病原性の高いウイルスを相手にしようと、エボラウイルスについて研究するため、米国の研究機関に留学しました。

ー米国での研究成果は

 まず、エボラウイルスが人間の細胞に侵入するメカニズムを明らかにしました。

 エボラウイルスは、人間の細胞がタンパク質を使ってカルシウムを取り込むメカニズムを巧みに利用して細胞に侵入することがわかったのです。そこで、その仕組みを阻害(妨害)する物質をいろいろと探した結果、高血圧の薬のいくつかに効果があることが判明しました。

 さらに研究を進めたところ、アジア原産の植物に含まれる「テトランドリン」という物質の効果が特に高いことを、マウスによる実験で突き止めました。この成分は、エボラウイルスの仲間である「マールブルグウイルス」にも効果があることがわかりました。

これまでの研究を発展させ、より広範な種類のウイルスを研究

ーエボラウイルスの研究は完了したのですか

 いえ、感染を阻害する効果が確認できたのはマウス実験までです。次に、より大型の動物を使った実験で安全性と有効性を確認したうえで、人間による治験を行う必要があります。別の薬でも実験を進めており、こちらもマウスでの実験は成功しました。この薬は他の目的で、日本国内で使われているので、むしろ、こちらの方が実現性は高いかもしれません。また、直近の研究成果としては、マラリア治療薬に含まれる「アモジアキン」の構造を少し変化させた化合物が、エボラウイルスの感染を強力に阻害することが判明しました。まだ細胞実験の段階ですが、細胞に対する毒性はアモジアキンよりも低く、感染阻害効果は10倍ほど高いという結果が出ています。現在、マウス実験のための準備を進めている段階です。

ー長大感染症共同研究拠点での今後のテーマは

 国内には現在、エボラウイルスなどの極めて病原性の高いウイルスの研究を行える施設がありません。そのため、海外の施設を利用せざるを得ず、思い通りに研究科進められないのがもどかしいところです。

 長崎大学が設置準備を進めている『BSL-4施設』(高度安全実験施設)が稼働すれば、研究のスピードアップはもちろんのこと、これまでの研究成果を発展させ、より幅広い種類のウイルス感染を防ぐ研究が進められると考えています。

Profile1981年千葉県出身。京都大学理学部卒業後、2010年同大学院生命科学研究科博士後期課程を卒業、ウイルス研究所で研究に従事。2012年より米国テキサスバイオメディカル研究所に研究留学。2017年11月長崎大学感染症共同研究拠点助教。



この内容は、感染症ニュース 第31号(2018年12月発行)に掲載しています。