2019年2月

現地の診療施設にてMSFメンバーたちと(写真左端)


医療体制が整っていない国では現在でも、予防できるはずの病気で多くの人が命を落としています。長崎大学病院総合診療科/感染症内科(熱研内科)の山梨医師は『MSF(国境なき医師団)』の一員として、途上国で発生した感染症とたたかっています。その経験を、どのように活かしていくかを聞きました。

患者さんの「背景」にまで目を向けることの大切さ

ー海外での医療活動に参加するようになったきっかけは

 小学生の頃、ネパールで行われた青少年育成プログラムに参加し、途上国の人々との考え方や価値観の違いに気づかされました。それを機に、どこの国でも普遍的に必要とされる医療に携わろうと思ったことが、そもそものきっかけです。

 大学卒業前、ポリオが大流行していたパキスタンに渡航。社会情勢や生活環境など、患者さんが置かれている「背景」にも目を向けなければ、感染症の発生を食い止められないことを痛感しました。

ー「国境なき医師団」メンバーとしての活動は

 最初は2016年11月から2017年2月まで、結核が蔓延していたパプアニューギニア湾岸州で、二度目は2017年12月から2018年1月まで、ジフテリアの集団発生が起きたバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプで、医療援助活動を行いました。

 パプアニューギニアでは、ワクチンによる予防制度が整っていないうえ、適切な治療をうけられる人はごく僅かででした。そのため子どもの患者が多く、日本では診たことのないような症状を起こした結核患者さんを多数診療しました。

 一方のバングラデシュは、宗教上の理由などで差別と迫害を受け続け、国籍もなく社会保障も受けられないロヒンギャの人たちが、数十万人規模で避難しているキャンプ。目が回るような忙しさでした。

感染症の流行時は、「今やるべきこと」が刻々と変化する

ー海外での医療活動を通じて得たものは

 正確かつ迅速に、病気を診断する力が身についたと感じます。難民キャンプでははしか(麻疹)なども流行していましたが、医療設備が整っていないので、発症初期はジフテリアかその他の疾患か、診断をつけにくい。しかも2~3日で急激に悪化してて遅れになる恐れがあるので、悠長に様子を見ているわけにはいかない。70床規模の病院に、毎日200人ほどの患者さんが運ばれてくるのですから、否が応でも、正確さと迅速さが求められます。

 同時に、データを基に病気の広がり方などを分析する、「疫学」の重要性を再認識しました。薬の量は限られているので、本当に必要な患者さんにだけ使いたい。今後、どの程度の量の薬が必要になるかを推計し、患者さんの年齢や重症度に合わせて治療方法を判断するには、疫学が必要不可欠なのです。

ーそれら海外での経験を、今後はどう活かしますか

 パプアニューギニアでは感染症に対する根強い偏見から、治療を拒否する患者さんが多数いました。日本でも、何らかの事情で診療を拒んだり、必要な医療が受けられなかったりする人は少なくありません。患者さんの「背景」まで見る医療が臨床医には必要です。

 私が海外で経験したことは、決して『対岸の火事』ではありません。実際、国内でも結核患者数の増加が問題視されていますし、今後、未知の感染症が発生する可能性もあるでしょう。そんな時、「今やるべきことは時々刻々と変化する」ということを、同僚や後輩たちにも伝えていきたいと考えています。

Profile2006年札幌医科大学卒業後、2012年までに日本内科学会総合内科専門医認定医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医・家庭医療専門医指導医などの資格を取得。2012年より長崎大学病院感染症内科、2018年同病院総合診療科/感染症内科(熱研内科)に勤務、現在に至る。



この内容は、感染症ニュース 第32号(2019年2月発行)に掲載しています。