2019年3月

感染制御教育センター講師の田中 健之氏


感染症が原因となって重大な病状が発生したり、何らかの疾患で免疫力が下がり、感染症が重症化したりすることがあります。長崎大学病院感染制御教育センター講師の田中さんは、院内の感染制御の活動や複数診療科から重症感染症についての相談を受ける「感染症コンサルタント」として活躍する一方で、感染症が引き起こす重大な病状のメカニズムを研究中です。

感染性炎症性の「肺水腫」が生じる原因と症状を抑える方法を探る

ー「感染症コンサルタント」として活動するようになった経緯は

 2002年から計6年間、長崎大学病院の熱帯医学研究所内科(現在の感染症内科)に所属し、炎症と免疫の働きなどについて研究を行いました。

 2年間の米国留学を終えて長大病院に戻ってからは、呼吸器感染症を中心に診るようになりましたが、大学病院のICU(集中治療室)や高度救命救急線たーに搬送される重症感染症患者さんは、抗生物質だけでは治せないような炎症が、呼吸器を中心に様々な箇所に生じています。

 そうした患者さんを診療するうち、炎症及び免疫機能の研究をベースにして、感染症と様々な全身症状との関連について研究するようになりました。

ー具体的には、どのような研究内容ですか

 現在は、感染症による「肺水腫」の発生メカニズムと、それを抑える方法をテーマに絞って研究しています。肺水腫とは、肺の中ん水分が流れ込んで呼吸がうまくできなくなる症状です。

 肺の中に水分が溜まるのは、肺炎や敗血症などが原因となり、血液中の水分が血管から漏れ出すためなのですが、その詳細なメカニズムは解明されていません。血管から水分が漏れ出る状態を「血管透過性の亢進(こうしん)」と呼び、肺以外でも特に重症感染症の場合には他の臓器でも同様の症状が起こりうるのですが、それを抑える薬も開発されていません。

感染症の原因を攻撃する治療と、防御力を高める治療とを「両輪」に

ー研究を通じて、どんなことが判りましたか

 私たちの体内には「マクロファージ」という血球細胞が存在しています。体内に侵入した細菌やウイルスを捕食する”掃除屋”であると同時に、保書屋した異物を他の免疫細胞に知らせる”伝令係”の役割も担う存在です。

 あらゆる臓器にマクロファージは存在するのですが、肺は体外の空気にさらされ、外界と接する唯一の臓器なので、マクロファージの性質も少し異なります。そして、加齢や薬などの影響でその機能が低下すると、肺炎などの炎症が起こりやすく、治りにくくな李ます。この状態が続くと、血管んお収縮を調節する「セロトニン」というホルモンが何らかの形で関わってきて、血管透過性が高まるのではないかとということが判かってきました。

ーその研究は、今後の診療にも活かされますか

 炎症の制御は非常に複雑で、現在の私の研究を、直ちに新薬の開発や新たな治療法の創出に結び付けることは難しいでしょう。

 ただ、症状を抑えるだけでなく、患者さんの免疫機能の状況も解析して治療法を考える研究ですから、様々な感染症に応用できます。感染症を引き起こしている体内の病原体をやっつける方法と、患者さんの防御力を高める方法との「両輪」を、同時に研究しているわけですからね。

 超高齢化に伴って、重症感染症の患者数は今後も増加すると予想されます。大学病院という、県内医療の”最後の砦”にいる医師・研究者として、他の医療機関では対応できなかった重症患者さんにも、手を差し伸べられる医療を目指したいと考えています。

Profile1975年佐世保市生まれ。2002年に熊本大学医学部卒業後、長崎大学病院熱研内科(現在の感染症内科)研修医。長崎原爆病院、十善会病院、長崎神経医療センターなど市中病院勤務、米コロラド大学呼吸器科への留学などを経て2013年より長崎大学感染症内科助教、2015年に同感染症内科講師、2018年同感染制御教育センター講師に異動し、現在に至る。



この研究内容は、感染症ニュース 第33号(2019年3月発行)に掲載しています。