2019年4月

医歯薬学総合研究科講師の森永芳智氏


私たちの身体の中には、大腸菌などの腸内細菌をはじめ、多種多様な細菌が棲んでいます。長崎大学病院検査部の森永さんは、「腸内細菌」のバランスの乱れが、さまざまな病気や抗菌薬などが効かない「薬剤耐性菌」の拡大にどのように関連するか研究し、医療現場に応用する方法を模索中です。

“共存共栄'の関係が何らかのきっかけで「悪玉」に

-腸内細菌と病気とは、どのように関わっているのですか

 私たちのからだは、平常時は、体内の細菌たちと 共存共栄の関係を保っています。細菌は、私たちが 食べたものから生きていくために必要な栄養を吸収し、一方で、外部から入ってきた細菌を“よそ者” として排除します。また、腸内細菌が産生するいろ いろな代謝物質のおかげで、私たちのからだの免疫機能が正しく働くことがわかっています。

 ところが、何らかの原因で体力が著しく低下する と、細菌の一部が血管内に入って、いろいろな組織 や臓器に炎症を発生させるなどの悪さをするよう になります。従来の医学では、感染症などを引き起 こす「悪玉」菌の研究が中心でした。私の研究は、「善 玉」として働いている大腸菌なども同時に観察し、からだのなかに棲み着いている菌、特に腸内細菌と 病気との関連を明らかにしようというものです。

-その研究は、医療の現場ではどのように役立つのですか

 腸内細菌のバランスが崩れるから病気になるのが病気になったから腸内細菌のバランスが崩れるのか…という因果関係は、はっきりとわかっていません。

 その詳しい関連性が明確になれば、腸内細菌の状態を調べるだけで罹りやすい病気を予測し、予防行動を起こしたり、すでに何らかの病気に罹っている患者さんに対しては、腸内細菌のバランスを元に戻すアドバイスを行ったりと、予防・治療の両方に応用が期待できるのです。

薬剤耐性菌は、とうやって“住空間” を作り出すのか

-善玉菌」と薬剤耐性菌との関連も研究中とのこと

 はい、細菌たちの集団を「細菌叢(そう)」と呼びますが、それぞれの菌は、自分たちが最も棲みやすい場所に最大限の細菌叢を形成し、それぞれの"縄張り"を守りながらバランスを保っています。

 そこに、外部から侵入した菌や新しく生まれた菌などの「よそ者」が縄張りを作ろうとしても、もはやそのすき間がありませんから、結果的に排除されるわけです。ところが、薬剤耐性菌はよそ者の菌なので、本来は体内に棲み着くことができないはずなのに世界的な問題になるほど増え続けています。

 もともとあった細菌叢と、耐性菌の新たな細菌叢との「力関係」や、両者の「叢」が拮抗できるメカニズムを明らかにすれば、耐性菌の増加を食い止める方法が開発されるかもしれません。

-そもそも、そうした研究を始めたきっかけは

 医学部卒業後、呼吸器内科の研修医として働き始め、大学院では感染症について専門的に勉強しました。感染症を引き起こす主な原因はウイルス、細菌、カビで、そのなかで最も関心が湧いたのが細菌でした。

 ウイルスと違って腸内細菌は、食生活や生活環境に配慮することで、ある程度まで自力でコントロールできます。研究者にとっても患者さんにとっても、より身近なものだと感じています。

Profile1976年長崎県出身。細胞の活動に関心を持ったのがきっかけで長崎大学医学部に進学、2010年博士課程修了。同大病院の呼吸器内科勤務後、同大大学院医歯薬学総合研究科の病態解析・診断学教室へ。2015~2017年のミシガン大学留学を経て、同教室講師、現在に至る。



この研究内容は、感染症ニュース 第34号(2019年4月発行)に掲載しています。