ある学術雑誌に掲載された論文より、カナダ国立微生物学研究所と米国テキサス大学医学部ガルベストン校の二箇所のBSL-4施設に関する合意形成事例をお示しするとともに、合意形成に支障が生じ設置が見送られたカナダのオンタリオ州立衛生試験所の事例をご紹介します。
この論文においては、この三つの事例を踏まえ、「信頼」や「情報開示」が重要であると指摘されており、長崎大学としてもこれらの点を重視して参りたいと考えております。

(注)「必要性」
 この論文においては、「信頼」や「情報開示」に加え、「必要性」も合意形成における重要な要素としています。
 カナダ国立微生物学研究所のケースにおいては、それまでカナダが頼っていた米国疾病予防管理センター(CDC)の業務が過重になり、引き続き依存することが困難になりつつあったこと、米国テキサス大学医学部ガルベストン校のケースにおいては、ガルベストンがメキシコ湾沿いの重要な港であること、地域社会にとって脅威となり得る病原体に研究の焦点をあてたことを指摘しています。
 一方、オンタリオ州のケースでは、カナダ国立微生物学研究所のBSL-4施設の稼働開始が迫っていたという事情が指摘されています。


(1)住民との合意形成に至った先行事例
 ある学術雑誌に掲載された論文より、カナダ国立微生物学研究所とテキサス大学医学部ガルベストン校の二箇所のBSL-4施設に関する合意形成事例の概要をまとめました。
合意形成にかかった期間:6年ないし8年の期間を要しました。
合意形成の方法と留意点:
  • 可能な限りの情報開示の実施可能な限り外部への情報開示を行い、見学会なども実施して透明性を確保しました。
  • 住民への情報伝達方法の工夫
    説明会の開催に際し、種々の開催方法や説明対象者を選び、継続的な対応を行いました。
  • 情報伝達に関わる研究者のトレーニング
    住民に説明を行う研究者など、担当者の情報伝達技能の上達を目的にトレーニングを行いました。
  • 情報共有化のための地域との連携体制構築
    地域の方々と率直な意見交換ができる素地を醸成し、その体制を維持・発展させることで、稼動に向けた準備を整えました。
(2)住民との合意形成に支障を生じ設置が見送られた事例
 カナダのオンタリオ州保健局は、1976年にラッサ熱の疑い患者が発生したことを受け、1982年、オンタリオ衛生試験所の中にBSL-4施設を設置することを公表しました。この後、1994年11月までの間にその施設に関して報道等で取り上げられることはほとんどありませんでした。
しかし、1994年11月にサル類のエボラ出血熱に関するテレビ番組の中で、オンタリオ衛生試験所に設置予定のBSL-4施設ではエボラ出血熱ウイルスをはじめとする治療方法がないウイルスが研究対象となることが放送されたことを契機に、地元で反対運動が起こりました。
 さらに、行政当局の公表内容が二転三転したほか、ウィニペグのBSL-4施設の稼働時期が迫るなどいくつかの事情が重なった結果、1995年6月、オンタリオ州保健局長は、オンタリオ衛生試験所におけるBSL-4施設設置計画の中止を発表しました。

本件において指摘された失敗の原因:
  • 当初からのBSL-4施設に関する地域社会とのコミュニケーションの欠如。(地域社会への説明・情報開示の欠如)
  • そうした中での上記1994年11月のテレビ番組。
    それに引き続く反対運動、映画「アウトブレイク」の封切等。
  • 地域社会での大議論の中でのBSL-4施設の必要性に関する専門家間におけるコンセンサスの欠如。

さらに、BSL-4施設の安全性に関する情報提供の失敗や消防等地域行政当局との情報共有の欠如。


(参考)
 世界のBSL-4施設