長崎大学高度感染症研究センター ウイルス-宿主相互作用研究分野

研究内容

1.エボラウイルスの感染増殖複製機構の解明

ヒトに致死性の重篤な病原性を呈するエボラウイルスの増殖メカニズムや関与する宿主因子については、まだ解明が進んでいない。当研究分野では、エボラウイルスにフォーカスを当て、エボラウイルスのライフサイクルに関与する宿主因子を同定することにより、エボラウイルスの感染増殖機構の解明を目指す。特に超解像共焦点レーザー顕微鏡LSM980を駆使して、エボラウイルスの細胞内における動態の分子イメージングを行っている。同時に本研究により同定した宿主因子を分子標的とした新規抗ウイルス剤の開発など、ウイルスの制圧に繋げたい。

2.エボラウイルスの複製の場 封入体 Inclusion bodyの形成機構と役割の解明

エボラウイルスやマールブルグウイルスは、マイナス鎖RNAゲノムを保持し、RNAゲノムサイズも18-19kbと比較的、RNAウイルスの中では大きい。エボラウイルス及びマールブルグウイルスは7種類のタンパク質をコードしているが、ウイルス のRNAゲノム複製は細胞質内に形成される封入体 inclusion Bodyの中で行われる。エボラウイルス VP35やNPは封入体形成を誘導するが、封入体形成に関与する宿主因子を同定し、封入体のエボラウイルス複製における役割や封入体形成を阻害する薬剤をスクリーニングして、新規抗ウイルス剤の開発を目指したい。

3.膜の無いオルガネラとRNAウイルス感染

細胞内には核、ミトコンドリア、小胞体など膜に囲まれたオルガネラと核小体、PML body、P-body、ストレス顆粒など膜の無いオルガネラが存在する。このような膜の無いオルガネラが液-液相分離(LLPS:Liquid-Liquid Phase Separation)という現象によって形成されることが明らかとなり、最近の細胞生物学のホットなトピックスとなっている。当研究分野は、このような膜の無いオルガネラとRNAウイルス感染の関係について、研究を進めている。特にmRNA代謝に関与するP-bodyとストレス顆粒やエボラウイルスの封入体などRNA顆粒にフォーカスを当てている。

4.トランスポゾンとエイズウイルス (HIV)

ヒトゲノムの約45%は転移因子トランスポゾンが占めている。LINE-1 (L1)は最もメジャーなトランスポゾンで、ヒトゲノムの約17%占めているが、その生理機能は不明である。逆転写酵素を保持し、ヒトゲノムにインテグレーションされる遺伝因子をレトロエレメントと称する。レトロエレメントは、LINE-1をはじめ、HIVなどのレトロウイルスやB型肝炎ウイルス (HBV)に分類される。当研究分野では、このようなレトロエレメントに関する研究も行なっている。LINE-1が異常にヒトゲノム内を転移すると、がんや遺伝病のリスクが高まる。HIVがヒトゲノムにインテグレーションされるとAIDSを発症する。レトロエレメントはヒトゲノムを維持する上で危険因子となり、ヒトにはこれらレトロエレメントからヒトゲノムを守る守護神のような防御機構を進化させている。当研究分野では、レトロエレメントと宿主の攻防をRestriction Factorにフォーカスを当てて研究を行っている。これまで、DNA修復因子Rad18がLINE-1のヒトゲノムへのレトロトランスポジション能を抑制すること、HIV-1インテグラーゼに結合因子Rad18がHIV-1感染を抑制することを見出している。また、エボラウイルスなど、RNAウイルス感染と内在性レトロトランスポゾンとの関係についても研究を進めている。