1.BSL-4施設に関する基本情報

Q1-1.バイオセーフティレベル(BSL)とは何ですか。
Q1-2.BSL-4施設は、日本で稼働しているのですか。
Q1-3.BSL-4施設は、世界でどのくらい稼働しているのですか。
Q1-4.BSL-4実験室にはスーツ(陽圧防護服)型以外にどのような種類がありますか。
Q1-5.現時点で長崎大学のBSL-4施設は稼働しているのですか。
Q1-6.長崎大学では、BSL-4施設をどのような目的で使用する考えですか。
Q1-7.長崎大学BSL-4施設の構造、建築面積、延面積を教えて下さい。

2.感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に関する手続き

Q2-1.BSL-4施設において特定一種病原体等を用いた研究を実施するためには法律上どのような手続きが必要ですか。
Q2-2.長崎大学BSL-4施設は特定一種病原体等を用いた研究を実施するまでの手続きにおいて、現在どのような段階にありますか。また、今後どのようなステップが予定されていますか。
Q2-3.特定一種病原体等は、いつ、何を搬入予定ですか。
Q2-4.特定一種病原体等が搬入されるに当たっては、どのようにして運搬されるのですか。

3.BSL-4施設を用いる研究の必要性

Q3-1.なぜエボラウイルスなどの特定一種病原体等の研究を行う必要があるのですか。
Q3-2.日本にはエボラウイルスは入って来ないのではないでしょうか。
Q3-3.仮に未知の感染症が発生した場合、その対応にもBSL-4施設は必要となるのですか。
Q3-4.未知の感染症についてはウイルスの構造・特性などが現時点では不明であるわけですから、それに備えてあらかじめ研究することは困難ではないですか。
Q3-5.海外で行われたBSL-4研究の成果を活用すれば、必ずしもわが国でBSL-4施設を用いた研究を行う必要はないのではないでしょうか。

4.長崎大学、高度感染症研究センターにおける感染症研究について

Q4-1.長崎大学には感染症研究に係るこれまでの蓄積、ポテンシャルがあるのでしょうか。
Q4-2.新型コロナ対策に長崎大学の感染症研究のポテンシャルが活かされた例はありますか。
Q4-3.本格稼働した後にBSL-4施設ではどのような研究を行う予定ですか。
Q4-4.特定一種病原体等を所持するまでの間にBSL-3やBSL-2の病原体を用いた実験を行うとありますが、その意義は何ですか。
Q4-5.BSL-4施設でどのような研究を実施したのか内容を公表する予定ですか。
Q4-6.BSL-4施設で危険な研究が行われてしまう恐れはないのでしょうか。

5.実験室からウイルスを外部に出さないためのシステム

Q5-1.BSL-4実験室内の空気中のウイルスが外に出てしまう心配はないのでしょうか。
Q5-2.BSL-4実験室は高気密で陰圧制御されているとのことですが、陰圧とはどういう意味ですか。また、陰圧制御により病原体の漏出を防ぐ仕組みについて教えて下さい。
Q5-3.ウイルスがBSL-4実験室からの排水に混じって外に出てしまう心配はないのでしょうか。
Q5-4.ウイルスが実験者に付着して外に出てしまうことはないのでしょうか。
Q5-5.感染した実験動物が逃げ出す心配はないのでしょうか。
Q5-6.自然災害などによる停電に備えて、非常用電源を用意すべきではないでしょうか。
Q5-7.特定一種病原体等を用いた実験を行った際に、実験者が感染の可能性が疑われた場合、どのように対応する予定ですか。

6.実験者をウイルスから守るためのシステム

Q6-1.実験者がウイルスに感染する危険はないのでしょうか。
Q6-2.陽圧防護服の陽圧とはどういう意味ですか。また、陽圧防護服により作業者が守られる仕組みについて教えて下さい。
Q6-3.陽圧防護服の重量はどれくらいですか。
Q6-4.陽圧防護服の色はなぜ黄色なのですか。

7.実験を安全に実施するためのルールや取組み

Q7-1.ヒューマンエラーが起きる可能性をなるべく小さくするためにどのような措置が取られていますか。
Q7-2.実験中に実験者の体調が悪くなったらどうするのですか。
Q7-3.BSL-4施設を安全に使用するための管理はどの部署が行っているのですか。
Q7-4.BSL-4施設における事故や災害等に備えて、地方自治体との間で何か対策をしていますか。

8.不正行為に対するセキュリティ措置

Q8-1.BSL-4施設への入退室管理はどのようになされますか。
Q8-2.実験に使用するウイルスが盗まれたり、奪われたりする心配はないのでしょうか。
Q8-3.BSL-4施設のインターネットに対する情報セキュリティ対策はどのようにしているのですか。

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1.BSL-4施設に関する基本情報

Q1-1.バイオセーフティレベル(BSL)とは何ですか。
A.BSLとは、微生物・病原体等を取り扱う実験室・施設の安全管理の厳格さを示す指標であり、病原体のリスクの大きさにより、その病原体を取り扱う実験室のBSLが定められます。BSLは4段階に分かれており、数字が大きいほど厳格になります。BSL-1および2は病原体封じ込めの基本的な措置であり、BSL-4が最高レベルの安全管理措置となります。BSL-4実験室で取り扱うことができる病原体にはエボラウイルスラッサウイルスなどがあります。

Q1-2.BSL-4施設は、日本で稼働しているのですか。
A.国立健康危機管理研究機構の国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)に、感染症の診断を主な目的としたBSL-4施設があり、平成27年8月に感染症法に基づき、厚生労働省よりBSL-4施設(法令用語では「特定一種病原体等所持施設」)として指定され、令和元年7月には特定一種病原体等の輸入に関する指定もなされた上で、現在稼動しています。既に稼働しているBSL-4施設としてはこれが唯一の例です。

Q1-3.BSL-4施設は、世界でどのくらい稼働しているのですか。
A.BSL-4施設は稼働中および稼働予定のものが、世界20カ国54カ所以上に設置されています*。アジアでも、インド、台湾、中国、韓国にあります。また、米国、ドイツ、イタリアなどでは、大学のキャンパス内に設置されている施設もあります。現在も世界各地で新たなBSL-4施設が計画・建設されており、近年新設されているBSL-4施設は、ほとんどがスーツ型実験室です。
*ウイルス 第72巻 第2号、pp139-148, 2022

Q1-4. BSL-4実験室にはスーツ(陽圧防護服)型以外にどのような種類がありますか。
A.BSL-4実験室はグローブボックス型とスーツ(陽圧防護服)型の2種類があります。グローブボックスはゴム製グローブを介して内部に手を入れてサンプルを取り扱う密閉ボックスのことで、クラスIIIキャビネットとも呼ばれます。グローブボックス型実験室では病原体はグローブボックスの中で封じ込められます。スーツ型実験室では、実験者は高気密の陽圧防護服を着用し、前面が開放されている作業台(クラスIIキャビネット)の中で実験作業を行います。実験室は、高度な気密構造や退出時用薬液シャワー等を備えることが求められ、病原体はクラスIIキャビネットだけでなく実験室自体でも封じ込められます。

Q1-5.現時点で長崎大学のBSL-4施設は稼働しているのですか。
A.現時点においてBSL-4施設は特定一種病原体等を所持しておりません。現在は特定一種病原体等を用いた研究開発への準備として、BSL-3以下の病原体を用いた研究開発等を行っている段階にあります。

Q1-6.長崎大学では、BSL-4施設をどのような目的で使用する考えですか。
A.BSL-4病原体による感染症に対する診断技術や治療法の開発、病気が起こるメカニズムを明らかにするための研究などを行います。感染症の制圧に取り組む研究者の育成も重要な目的です。また将来的には、BSL-4病原体に感染が疑われる患者の検体の検査も実施することを考えています。

Q1-7.長崎大学BSL-4施設の構造、建築面積、延面積を教えて下さい。
A.構造は鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造です。建築面積は約1,300平米、延面積は約5,100平米となります。

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2.感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に関する手続き

Q2-1.BSL-4施設において特定一種病原体等を用いた研究を実施するためには法律上どのような手続きが必要ですか。
A.BSL-4施設を建設し、施設内の設備の検証や慣熟運転を行った後に、まず感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という)に基づき厚生労働大臣より特定一種病原体等所持施設の指定を受ける必要があります。その後に、特定一種病原体等を海外から輸入するための厚生労働大臣指定、または国内他機関から移送するための厚生労働大臣承認を受けることで特定一種病原体等を用いた研究を実施できるようになります。

Q2-2.長崎大学BSL-4施設は特定一種病原体等を用いた研究を実施するまでの手続きにおいて、現在どのような段階にありますか。また、今後どのようなステップが予定されていますか。
A.BSL-4施設は感染症法に基づき2025月1年24日に厚生労働大臣から特定一種病原体等所持施設の指定を受けました。これは、特定一種病原体等(ラッサウイルスエボラウイルスマールブルグウイルスクリミア・コンゴ出血熱ウイルス南米出血熱ウイルス)を所持するための基準を満たしている施設として認められたということです。
下図ではBSL-4施設において特定一種病原体等を用いた研究を実施するまでを、ステップ1~4の4つの段階で説明しています。今回の指定を受けたことによりステップ3の段階に進んだことになります。

現在のステップ3は、まだ特定一種病原体等は所持していない段階ですが、感染症法に基づき、BSL-4施設は既に国の監督下に置かれています。特定一種病原体等を用いた研究を実施するためには、厚生労働省より輸入の大臣指定または移送の大臣承認を受け、上図におけるステップ4へと進む必要があります。現在、病原性の低い病原体等を用いた研究を実施しながら、ステップ4に進むための準備を行っています。

Q2-3.特定一種病原体等は、いつ、何を搬入予定ですか。
A.特定一種病原体等を実際に施設に搬入できるまでには、既に病原体を保持・管理している搬入元との調整、運搬の手配等に加え、更には厚生労働大臣による搬入のための指定又は承認が必要となることから、相当の時間を要するものと考えます。搬入の時期や病原体等について、具体的に予見できるところではありません。

Q2-4.特定一種病原体等が搬入されるに当たっては、どのようにして運搬されるのですか。
A.特定一種病原体等を運搬するに当たっては、感染症法に則り、専門の知見、技術を有する運搬業者に委託し、公安委員会の管理の下に行うこととなります。

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3.BSL-4施設を用いる研究の必要性

Q3-1.なぜエボラウイルスなどの特定一種病原体等の研究を行う必要があるのですか。
A.気候変動等による感染症流行地の拡大や、国際交流の活発化による国際流動性の高まりを考慮すると、我が国の安全安心を確保するためにも、世界で流行している感染症への対応が非常に重要と考えています。2014-16年西アフリカにおけるエボラウイルスの流行では欧米まで患者発生が拡大しました。マールブルグ病が最初に見つかったのはドイツです。クリミア・コンゴ出血熱はヨーロッパでも発生しています。ラッサ熱も日本に帰国後に発症した人がいます。だからこれらは決してアフリカの奥地の風土病で片付けることはできません。いつ日本に入って来ても不思議ではないのです。
 特定一種病原体等の研究が他の感染症対策に有意義なこともあります。例えば、エボラ出血熱の治療薬やワクチンの開発研究が、2019年末より始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行において直ちに活用できたことが、パンデミック対策への大きな力となりました。
 具体的には、エボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルが(早期に投与開始する限り)新型コロナウイルス感染症に対する非常に有効な抗ウイルス薬として活躍し、また新規モダリティのワクチン研究が既に進められていたため、迅速な新型コロナワクチンの開発及びその実用化に貢献しました。
このようにエボラウイルス等の研究は、他の感染症等への対策としても大いに期待できるため、BSL-4施設を用いた特定一種病原体等の研究を行うことは重要であると考えています。

Q3-2.日本にはエボラウイルスは入って来ないのではないでしょうか。
A.2014年から2016年に西アフリカでエボラ出血熱が流行しました。この流行の際に英国、米国等にエボラウイルスが入ってきたことで、それらの国で実際にエボラ出血熱患者が発生しています。日本でも当時西アフリカに渡航した数名の方が帰国後に発熱の症状を呈したため、専門の医療機関に入院し、国立感染症研究所村山庁舎(2025年4月に国立健康危機管理研究機構へ改組)においてエボラ出血熱の遺伝子検査(PCR検査)を行っています。結果は全て陰性でしたが、再びエボラ出血熱が海外で流行した時に、流行地域に渡航して日本に帰国した方が感染している可能性はあり、日本がエボラウイルスと無縁と考えることはできません。

Q3-3.仮に未知の感染症が発生した場合、その対応にもBSL-4施設は必要となるのですか。
A.未知の感染症が発生した場合、その病原体の性状が不明であることから、市中における感染症の発生状況(伝播性、重篤さなど)や類似病原体の性状などから実験室でその病原体を取り扱うリスク評価を行います。その結果、実験室での封じ込めの必要性と作業者の安全を確保するために最高レベルの安全管理が必要だと判断された場合、BSL-4施設で取り扱う必要が出てきます。従って、新たに発生するかもしれない未知の感染症(これを“Disease-X”と呼称する場合もあります)に対応する上でもBSL-4施設は必要です。

Q3-4.未知の感染症についてはウイルスの構造・特性などが現時点では不明であるわけですから、それに備えてあらかじめ研究することは困難ではないですか。
A.まず、いくつかのウイルスについては、これまで繰り返し人類に襲いかかってきた歴史があります。例えばインフルエンザウイルスについてはスペインかぜ(1918-1920)、アジアかぜ(1957-1958)、香港かぜ(1968-1969)等のパンデミックで多数の感染者を出しました。コロナウイルスについてはSARS(重症急性呼吸器症候群、2002-2003)、MERS(中東呼吸器症候群、2015年に韓国でアウトブレイク)が発生したほか、COVID-19が2019年以降パンデミックを起こし世界中で多くの死者を出したことは記憶に新しいところです。この種のウイルスについては、新たなタイプのものが再び新興感染症として流行する可能性が高く、平時から感染症の発生動向について調査・研究を行うことは非常に重要です。また未知のウイルスが見つかった場合、近年の著しい技術進歩により新しいゲノム解析機器を用いて短期間でウイルスのゲノム配列を明らかにすることができるようになっています。従って、新興感染症を完全に予測することは不可能であっても、色々な想定の下に準備研究を行っておけば、実際に未知のウイルスが出現した時に、想定したケースからの修正を行った上で迅速に感染症対策に繋げることができると考えます。

Q3-5.海外で行われたBSL-4研究の成果を活用すれば、必ずしも我が国でBSL-4施設を用いた研究を行う必要はないのではないでしょうか。
A.日本でBSL-4研究ができないということは、BSL-4病原体に対するワクチンや抗ウイルス薬を自国で開発できないことを意味します。未知の病原体が出現した場合も、その毒性や伝染力がよくわからないうちは、BSL-4施設を用いなければ診断・治療・予防法の開発のための研究を行うことはできません。将来、これらの病原体による感染症が世界中でパンデミックを起こしたときに、他国からワクチンや抗ウイルス薬がスムーズに供給される保証は無く、日本の国民の健康が脅かされ経済的にも大きな負担がかかる恐れがあります。安全保障上の観点からも、我が国でBSL-4施設を用いた研究を行う必要があると考えます。

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4.長崎大学、高度感染症研究センターにおける感染症研究について

Q4-1.長崎大学には感染症研究に係るこれまでの蓄積、ポテンシャルがあるのでしょうか。
A.長崎は江戸時代から世界に開かれた国際都市として機能してきました。一方で、出島を経て外国からもたらされるコレラ、麻疹、天然痘、インフルエンザなど当時の新興感染症による被害も真っ先に受けてきました。1857年に創立された長崎医学伝習所(後に小島養生所:現長崎大学医学部)でも、コレラなど感染症の治療や予防が、その教育・医療活動の重要な部分を占めていました。この感染症研究は、現在では、長崎大学医学部や長崎大学熱帯医学研究所に引き継がれています。このように長崎大学には、日本だけでなく世界の感染症研究の拠点として、診断や治療、予防法の研究と教育活動の長年にわたる蓄積、ポテンシャルがあると考えています。

Q4-2.新型コロナ対策に長崎大学の感染症研究のポテンシャルが活かされた例はありますか。
A.長崎大学は遺伝子増幅法である蛍光LAMP法を用いた新型コロナウイルスの迅速検査システムをいち早く開発しました。本検査システムは、患者から新型コロナウイルス遺伝子を短時間で検出でき、また本システムで用いる装置は、軽量かつコンパクトであるとともに操作性も優れており、医療機関内だけでなく、感染の現場に持ち出しての使用も可能です。パンデミックの早い段階でこの検査システムを開発していたおかげで、長崎港に入港したクルーズ船「コスタ・アトランチカ号」における新型コロナの集団感染の際に直ちに全員の検査を実施することができ、一人の死者も出すことなく集団感染を終息させることができました。

Q4-3.本格稼働した後にBSL-4施設ではどのような研究を行う予定ですか。
A.世界的に研究が進んでいない致死性の高い感染症や新興感染症に対する研究開発の進展、また特定一種病原体等に関する研究において世界トップレベルの成果の創出を目的として、エボラ出血熱クリミア・コンゴ出血熱等の感染・発症のメカニズムの解析や、治療薬及びワクチンの開発、今後発見される未知の感染症への対応等の研究を実施する予定です。なお、特定一種病原体等を所持しBSL-4施設を本格稼働するまでの間には、BSL-3、BSL-2の病原体を用いて上述の研究に向けた準備研究を行います。
 また、上記の研究を通じて、特定一種病原体等を取り扱うことができる人材の育成も行う予定です。具体的には研究者や施設の維持管理に携わる者等を対象とした我が国初の陽圧防護服型BSL-4施設使用に係る体系化した教育訓練プログラムを確立し、特定一種病原体等を安全に取り扱うための豊富な知識と経験を有する人材を育成することを目指します。

Q4-4.特定一種病原体等を所持するまでの間にBSL-3やBSL-2の病原体を用いた実験を行うとありますが、その意義は何ですか。
A.ここで実験の対象とするBSL-3以下の病原体はBSL-4ウイルスに性質がよく似ているもの等を用います。例えば細胞の中にどのように侵入し、どういう仕組みで増えていき、ヒトの免疫の働きがそこにどう関わっていくのか等の性質が似ているということです。また、BSL-3以下の病原体を解析する過程で機器の使用方法、使用手順に慣れるという意味もあります。このようにBSL-3やBSL-2の病原体を用いた実験から開始することは、BSL-4ウイルスを取り扱う前の準備として非常に重要です。

Q4-5.BSL-4施設でどのような研究を実施したのか内容を公表する予定ですか。
A.「長崎大学高度感染症研究センター実験棟生物災害等防止安全管理規則」等に基づき、特定一種病原体等を用いて作業を実施した年月や研究及び作業の内容等(機密情報を含まない内容)について、地域連絡協議会等で公表することとしております。

Q4-6.BSL-4施設で危険な研究が行われてしまう恐れはないのでしょうか。
A.BSL-4施設における実験内容の確認方法としては、高度感染症研究センターの実験者が作成した計画書について、研究部門で適正な実験かを審査し、バイオリスク管理部門で安全面を審査した上で、さらに学内のバイオリスク管理委員会が審査し、法令上の病原体所持者たる学長が、最終的に実験に問題がないことを判断し承認する、という何段階にも及ぶチェック体制による手続きを予定しています。この大学内での手続きを経る必要があるため、危険な研究が承認される恐れはないものと考えます。

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5.実験室からウイルスを外部に出さないためのシステム

Q5-1.BSL-4実験室内の空気中のウイルスが外に出てしまう心配はないのでしょうか。
A.BSL-4施設は、建物の中に、密閉されたBSL-4実験室を設置する構造をとっています。実験室は外部より低い気圧に保たれ、実験室内の空気は室外に流れ出ない設計になっています。実験室からの排気は、二重の高性能 (HEPA; High Efficiency Particulate Air) フィルターで微細な粒子まで取り除いた後に外部に排出されます。

Q5-2.BSL-4実験室は高気密で陰圧制御されているとのことですが、陰圧とはどういう意味ですか。また、陰圧制御により病原体の漏出を防ぐ仕組みについて教えて下さい。
A.陰圧とは実験室内部の気圧が実験室外部の気圧よりも低い(=マイナスである)ことを意味しています。実験室は壁厚なコンクリートで建築され、特殊なシーリング加工等が施されており、極めて高い気密性を有しており、実験室内の空気が外部に漏れることを防いでいます。また、実験室に備わる換気システムにより、室内の空気は常時清浄な空気に入れ替わり、実験室からの排気はHEPAフィルターで清浄化して排出されます。これにより実験室内の空気およびそれに含まれる病原体が実験室内から外に漏出することを防ぐことができます。

Q5-3.ウイルスがBSL-4実験室からの排水に混じって外に出てしまう心配はないのでしょうか。
A.BSL-4施設では、実験室区域からの排水は全て、高圧蒸気滅菌し、更に薬剤で化学的に消毒します。この処理により、排水に含まれるウイルスを完全に不活化(死滅)させることができます。

Q5-4.ウイルスが実験者に付着して外に出てしまうことはないのでしょうか。
A.実験者が実験室から退出する際には、消毒剤のシャワーで実験室用のスーツ(陽圧防護服)を除染します。この段階で、仮にウイルスがスーツに付着していても不活化(死滅)させることができます。

Q5-5.感染した実験動物が逃げ出す心配はないのでしょうか。
A.実験動物は密閉された個別換気式のケージの中で飼育されます。さらに、飼育室から実験室区域の出口まで進むには複数の部屋を通って行く必要があり、部屋の前後の扉は同時に開かない構造になっていますので動物の逃亡には何重ものシステムで防止策がとられています。

Q5-6.自然災害などによる停電に備えて、非常用電源を用意すべきではないでしょうか。
A.水害も含めた自然災害などによる停電に備えて、BSL-4施設には非常用電源が設置されています。また、非常用電源は施設の病原体封じ込めに係る設備を正常に維持できる容量があり、1台が故障しても稼働できるよう多重化されています。

Q5-7.特定一種病原体等を用いた実験を行った際に、実験者が感染の可能性が疑われた場合、どのように対応する予定ですか。
A.実験作業者が実験中に感染したことが疑われる場合には、応急措置として長崎大学病院において診察を行います。診察の結果がでるまでも、一類感染症患者を収容できる施設に直ちに隔離して検査します(感染していないことが確定するまで実験作業者は隔離されます)。第一種感染症指定医療機関である長崎大学病院には、現在、一類感染症患者に対応できる病床が用意されています。また、「長崎大学高度感染症研究センター実験棟生物災害等防止安全管理規則」に基づき訓練等を実施し上述のような対応方法を確認しています。

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6.実験者をウイルスから守るためのシステム

Q6-1.実験者がウイルスに感染する危険はないのでしょうか。
A.実験時には、実験者は陽圧防護服(実験用のスーツ)を着用するため実験室内の環境と完全に遮断されています。また、実験室内では鋭利な器具を極力使用しないなど、実験者の安全に配慮した運用がなされます。設備面・運用面双方で実験者の感染リスクが限りなく低くなるように対策がとられています。

Q6-2.陽圧防護服の陽圧とはどういう意味ですか。また、陽圧防護服により作業者が守られる仕組みについて教えて下さい。
A.陽圧とは陽圧防護服の内部の気圧が防護服外部の気圧よりも高い(=プラスである)ことを意味しています。陽圧防護服は隙間のない密閉構造をしており、作業者は実験室環境から物理的に遮断することで作業者を病原体から守ります。陽圧であることにより、万一、防護服に隙間が生じても実験室内の空気が防護服内部に入らないよう押し出すことができます。これにより、作業者は実験室内空気中の病原体に触れることなく活動ができます。

Q6-3.陽圧防護服の重量はどれくらいですか
A.約7kgです(サイズにより異なります)。

Q6-4.陽圧防護服の色はなぜ黄色なのですか。
A.実験ではウイルス等が含まれた培養液(赤色)や血液を取り扱う場合がありますが、ウイルスを含むそれらの液が防護服に付着した際には容易に視認できる必要があります。それらの液の色と比較的コントラストの高い色として防護服の色を黄色としています。

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7.実験を安全に実施するためのルールや取組み

Q7-1.ヒューマンエラーが起きる可能性をなるべく小さくするためにどのような措置が取られていますか。
A.長崎大学は教育訓練を受講する等安全管理規則により規定される条件を満たした者にBSL-4実験室への立ち入りを認めています。また、BSL-4実験室には常時2名以上が入室し互いの行動をチェックできること、実験時間を1日6時間以内に制限し過度に疲労しないことなど、ヒューマンエラーの予防措置に万全を期しています。さらに実験室内作業に係る手順の作成と定期的な見直し、定期的な訓練を行うことでヒューマンエラーの防止を図っています。

Q7-2.実験中に実験者の体調が悪くなったらどうするのですか。
A.BSL-4実験室に入室する場合は複数名で入室し互いの実験をサポートするとともに、スタッフが監視カメラ等で常に実験室内を監視しており、体調悪化時にはすぐに対応できるようにしています。実験者は、そのような場合に備えた非常時対応訓練も実施しています。また、同じ大学内の第一種感染症指定医療機関である長崎大学病院と連携して搬送訓練を実施したり、BSL-4施設に出入りするスタッフはAED講習や心肺蘇生法を受講する予定である等緊急時に備えています。

Q7-3.BSL-4施設を安全に使用するための管理はどの部署が行っているのですか。
A.長崎大学高度感染症研究センターのバイオリスク管理部門が行っています。同部門は、バイオセーフティ(人や環境を病原体から守る)及びバイオセキュリティ(病原体を盗難や不正利用から守る)の両方の観点からBSL-4施設が安全に使用されるよう管理を行っています。また病原体の所持や使用については、感染症法に基づき施設設備(ハード面)とその利用方法(ソフト面)に厳しい規制が設けられています。バイオリスク管理部門ではそれらに基づいて施設が利用されているか、施設の管理状況を点検記録し、国と大学が行う定期的な監査を受けながら対応の改善、強化を進め、実験を行う上での安全基盤の構築に努めています。

Q7-4.BSL-4施設における事故や災害等に備えて、地方自治体との間で何か対策をしていますか。
A.BSL-4施設に係る事故・災害等について、長崎大学としては、市、長崎県及び関係機関等と密接に連携して対応することにより、安全・安心を確保することとしています。具体的には「長崎市地域防災計画」および「長崎大学高度感染症研究センター実験棟生物災害等防止安全管理規則」に基づき、長崎市等と協力して報告・連絡体制の構築、対応マニュアルの整備等を行うとともに、長崎市や消防等との防災訓練及び警察等との訓練を定期的に実施しています。

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8.不正行為に対するセキュリティ措置

Q8-1.BSL-4施設への入退室管理はどのようになされますか。
A. BSL-4施設への入退室は厳重に管理されます。施設はセキュリティカードを含めた多重の個人認証システムを導入しており、監視カメラ、入退室記録システムなども備え、許可された者以外は入ることができません。

Q8-2.実験に使用するウイルスが盗まれたり、奪われたりする心配はないのでしょうか。
A.BSL-4施設には事前に登録・承認された者以外は立ち入れない規則となっており、BSL-4実験室の入退室は厳重に管理されます(前Qのとおり)。また、複数の研究者が同時に作業を行うことで、ウイルスの取り扱いについて互いを監視し合うことにもなっています。さらに、実験室内外の様子は常に監視カメラ等で監視します。また、不審者などに備えて警察等との訓練を定期的に実施する予定です。

Q8-3.BSL-4施設のインターネットに対する情報セキュリティ対策はどのようにしているのですか。
A.BSL-4施設内のネットワークは、一般インターネットから分離された建物内専用の閉鎖系ネットワークを使用しています。また、電子機器等の施設内への持ち込みは厳しく制限する等対応しています。