長崎大学高度感染症研究センターは、人類にとって大きな脅威である感染症に対して、研究・開発の面からその制圧に貢献することを目指しています。当センターの感染症研究は人に対して強い病原性を持つウイルス等を対象としているためウイルス等に対して幾重もの封じ込め対策が施された実験施設が必要となります。ウイルス等は病原性の強弱により、その病原体を取り扱うべきバイオセーフティレベル1~4(BSL-1~4)に分類されます。当センターは最も病原性の強いBSL-4のウイルス等まで研究の対象にしています。
 当センターの実験施設は、BSL-4のウイルス等を取り扱えることからBSL-4施設と呼称しています。BSL-4施設は内部の実験室内がその周囲よりも低い気圧で維持されているなど、高度の封じ込め性能を有しています。また実験室内で活動する研究者は、我が国では初めてとなるスーツ型の陽圧防護服と呼ばれる密閉された服を着用して実験に従事します。(※)
 このページにおいては、バイオセーフティレベル(BSL)、BSL-4施設の概要、そしてBSL-4施設で実験を行う際に着用する陽圧防護服の概略について説明致します。
BSL-4施設に関するQ&Aについてはこちら

(※)現時点においてBSL-4施設は本格稼働に向けた準備作業を行っている段階にあり、BSL-4病原体を用いた実験も始まっておりません。

 BSL-4施設の概要 

バイオセーフティレベル
・取り扱い微生物を取り扱う際のリスク(伝播力、病原性、ワクチン・治療薬の有無など)によって必要なBSLは決定される。
・ BSLに応じたソフト・ハード両面での微生物封じ込め設備・運用の必須要件が定まっている。
・ BSL-4実験室はリスクの高い病原体のための最高レベルの封じ込め設備およびセキュリティを備えた実験室である。

BSL-4施設の構造

*1  BSL-4実験室は周囲から隔離された高気密な封じ込め空間になっている。
*2  高性能エアフィルター(HEPAフィルター)が実験室の上に備えられ、出入りする空気を清浄化する。
*3  実験室からの排水は高圧蒸気滅菌装置及び薬液処理装置により完全不活化される。
*4  上層階にはその他実験のサポート設備(機械室・薬液シャワー供給、陽圧防護服(スーツ)への空気供給設備等)がある。
*5  地階には積層ゴムや多重の耐震ダンパーがあり、高度な免震構造となっている。

実験者の安全を確認するため、実験室への入室、実験室からの退室にあたっては、いくつもの部屋を通過しながら、実験者が病原体にさらされたり、病原体が外部に漏れたりすることのないような措置が取られています。

*6  更衣室で実験着に着替えます。
*7  スーツ室で陽圧防護服を着用します。スーツ室から先において、空気は天井からの給気ラインにより確保されます。
*8  薬液シャワー室を通って実験室に入室します(入室時は薬液シャワーは浴びません)。

*9  実験室から薬液シャワー室に入り、四方に備えられたノズルから消毒液が3分間噴霧されます。その後に、温水が3分間浴びせられ消毒液が洗い流されます。
*10  スーツ室で陽圧防護服を脱ぎます。
*11  シャワーで体を洗い流します。
*12  更衣室で私服を着ます。

 陽圧防護服について 

本学のBSL-4施設で用いる陽圧防護服の概要
陽圧防護服 (スーツ) は、外部空気供給装置を備えた実験室用防護具。
・実験室の作業者と病原体の間に物理的な障壁として機能する。
・スーツ内を陽圧に保つことにより、実験室内の空気がスーツ内に逆流しないようにして、作業者が病原体に曝露することを防ぐ。
・国内で化学防護服を製造している(株)重松製作所と共同で、本学BSL-4実験室用に新たに開発。

①エア供給ホース
BSL-4実験室の外部から清浄な空気を継続的に作業者へ供給。
②排気弁
過剰な空気をスーツ外に排出し、実験室の空気がスーツ内に逆流することを防ぐ。
③フェイスシールド
歪みが少なく、視野を損なわない形状。
➃気密ジッパー
スーツ内の気密性を確保。
➄エアバルブ
空気の流量を調整しスーツ内を陽圧に保つ。
➅フィルター
清浄な空気をスーツ内に供給。
⑦スーツグローブ
スーツの袖口にダクトテープで固定して使用。
➇スーツ用長靴
滑り難く、汚れが付着しにくい長靴。
➈スーツ用素材
強度、防水性、耐薬品性を備えた素材を使用。

【陽圧防護服の仕様】(Mサイズの場合)
 対象身長:170cm~176cm
 防護服重量:約7kg
 防護服内の空気圧力:0.4~0.8MPa
 防護服への空気供給量:200~300L/分
 耐用年数:約5年間
 なお、陽圧防護服のサイズは3S~2Lがある。

・病原体は、エアロゾルによる曝露から作業者を保護する生物学的安全キャビネットで取扱う。
・実験室の作業者は、BSL-4実験室の退室の際に薬液シャワーにより除染を行い、病原体が実験室外に出ることを防ぐ。