既に24ヵ国・地域で、59ヵ所以上にBSL-4施設は設置されています。

※BSL-4施設は諸外国で50年以上の稼働実績を持ちますが、これまでに施設外への病原体の漏出等は一度も起きていません。

2017年12月 長崎大学調べ

諸外国のBSL-4施設紹介

諸外国の主要なBSL-4施設として、米国の2件を紹介します。

〇アメリカ国立衛生研究所(NIH)/ロッキーマウンテン研究所(RML)

 ロッキーマウンテン研究所(RML)の最初の建物は1928年に竣工した。RMLは1900年頃にモンタナ州西部のビタールート渓谷において、ロッキー山紅斑熱の原因究明のため、研究者たちが仮設小屋やテントで調査を始めた活動を起源としており、100年以上の歴史がある。
 RMLは3つの主要な研究部門からなり、各研究部門には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、ライム病、野兎病、サルモネラ、プリオン病、およびダニ媒介性脳炎など、特定の感染症を研究する研究室が複数存在し、それぞれに研究室長がいる。RMLには、約14万平方メートルの敷地に30棟の建物があり、約450人の従業員が雇用されている。
 100 年以上にわたる歴史と感染症研究における専門知識を持つ RML は、新興および再興病原体に関する研究を安全な環境下で実施するため、2008年にRMLキャンパス内に統合研究施設を開設した。この施設には高セキュリティ実験室が設置されており、研究者および周辺地域住民の安全を最優先に、可能な限り最高水準の安全基準を適用している。施設の設計は、建設、使用、セキュリティ、検査、認証に関する連邦政府および州の厳格な規制に準拠している。
 統合研究施設は、BSL-2実験室、BSL-3実験室、スーツ型BSL-4実験室、管理事務所、会議室を一体化したNIH初のBSL-4施設であり、2008年に稼働を開始した。それぞれ複数のin vitro(試験管内)、in vivo(生体内)実験室から構成される最大級の実験区域を保有し、アレナウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、フィロウイルス等を対象とした基礎研究に加え、臨床応用を見据えた薬剤候補やワクチン、診断法の開発が進められている。
 RMLは、ビタールート山脈とサファイア山脈に囲まれた、小さいながらも活気あふれるコミュニティであるモンタナ州ハミルトンの住宅街にあり、1kmほど離れた場所にスーパーマーケットや中学校がある。


出典:ロッキーマウンテン研究所(RML)ホームページ
   https://www.niaid.nih.gov/about/rocky-mountain-laboratories
   https://www.niaid.nih.gov/about/rocky-mountain-overview
   
   ウイルス 第72巻 第2号、pp139-148, 2022

写真提供:National Institute of Health

ボストン大学国立新興感染症研究所(NEIDL)

 NEIDLは、ボストン大学医学部キャンパスに隣接する大規模な生物医学研究・ビジネスパーク「BioSquare」内に位置している。施設竣工は2008年だが、国内法に従った施設の認証が地元の反対により進まず、2017年に国内認証が得られ、2018年に病原体が搬入され施設の利用が開始された。
 約18,000平方メートル7階建ての建物内に、BSL-2およびBSL-3の実験室、スーツ型BSL-4実験室を有し、蚊やダニなどの昆虫飼育室が設置されている。また、BSL-4実験室を模した訓練室が設置されており、新規雇用者や外部研究者が安全な条件下で訓練を行うことができる。
 NEIDLは、新興・再興感染症およびその原因となる病原体の研究に特化しており、フィロウイルス等の病原性機構解明を目的とした基礎研究、また、COVID-19に対する低分子治療薬スクリーニング等の治療法開発が進められている。
 同じ建物内に異なるBSL実験室を持つ利点として、例えばBSL-2 実験室で行った予備実験で得られた結果を、BSL-4実験室にて野生型ウイルスを用いて検証することができる。また、不活化したサンプルをBSL-4実験室から持ち出し、BSL-2 実験室にて迅速に解析することができる。
 NEIDLは、研究内容の完全な透明性を確保し、施設内の安全とセキュリティに関する情報公開と地域社会との連携にコミットしている。NEIDLはボストンの市街地にあり、約800mの距離に小中学校が複数あるほか、2kmぐらいの距離に観光地としても有名なボストン美術館、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館がある。


出典:ボストン大学国立新興感染症研究所(NEIDL)ホームページ
   https://www.bu.edu/neidl/about-neidl/
   https://www.bu.edu/neidl/about-neidl/about-the-building/
   https://www.bu.edu/neidl/community/
   
   ウイルス 第72巻 第2号、pp139-148, 2022

長崎大学が視察した中から、諸外国のBSL-4施設を3件紹介します。

〇ベルンハルト・ノホト熱帯医学研究所 BNITM(ドイツ・ハンブルグ)

 1890年代に外国からの船舶の入港によってハンブルグ市にコレラがまん延したことにより、熱帯病研究の必要性が認識されたことがきっかけで、1900年に設置された。海軍医だったベルンハルト・ノホトが港湾医として抜擢され、当初は、船員専用の病院兼研究所として運営された。
 1982年、旧館地下に欧州で初めてのスーツ型BSL-4実験室(遺伝子組み換え非対応)を設置。出血熱ウイルスなど病原性が高いBSL-4病原体を扱うようになった。その後、2000年から、新たなBSL-4実験室を備えた新館の設置計画が開始され、2009年に施設が完成。2014年1月に、新しいBSL-4実験室が稼働を開始した。出血熱を引き起こすウイルス(エボラ、マールブルグ、ラッサ、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスなど)の診断および診断法開発に関する研究、ウイルスの増殖機構や病原性、宿主の免疫応答などに関する基礎的研究、治療と予防に関する応用研究を行っている。
 BSL-4施設には、小型動物用の動物室も有している。連邦保健省、ハンブルグ市、欧州委員会、ドイツの研究財団等公的資金で運営し、ハンブルグ市(自由ハンザ都市)が管理している。
 施設の立地場所は、エルベトンネルなどエルベ川沿いの観光名所から100mほどの距離にある市街地。エルベ川を眺望する市街地にあり、道路向いには、観光ホテル、住宅などが並ぶ。

施設外観
玄関
施設周辺地図

〇スウェーデン国立感染症対策研究所(スウェーデン・ストックホルム県ソルナ市)

 スウェーデン国立感染症対策研究所は、2014年にスウェーデン国立公衆衛生研究所とスウェーデン伝染病管理機関の合併により、設立された。本研究所は、スウェーデンの公衆衛生庁に所属し、北欧地域で唯一のBSL-4施設(2001年設置)であり、致死率の高い感染症に対する準備、検査体制の維持、バイオリスク管理の指導、WHO/EUへの協力などが任務とされている。当該研究所は、BSL-3やBSL-4実験室を使い、人の健康のための感染症対策研究を行っている。国境を越えたEUの枠組みで患者の診断や国際的なプロジェクトを行い、連携を図っている。当該研究所では、アフリカの施設とも連携しHIVに関するプロジェクトも行っている。約450名の研究者・職員が在籍しており、ソルナ市に拠点が置かれている。

施設外観
BSL-4施設
施設周辺地図

〇南アフリカ国立伝染病研究所(南アフリカ・ヨハネスブルグ)

 南アフリカ国立伝染病研究所は、2002年に既存の国立ウイルス学研究所および南アフリカ医学研究所の微生物部門等を統合して設立され、南アフリカ共和国の国立衛生研究局に所属している。本研究所は、同国の最大の都市であるヨハネスブルグの近郊にあり、周辺には住宅地、学校、ショッピングモールなどがある。
 同研究所のBSL-4研究施設は、1979年から建設が開始され、1981年から稼働し、2009年には大規模改修されて2010年から稼働して現在に至っている。アフリカでラッサやエボラ、マールブルグなどウイルス性出血熱およびアルボウイルス疾患の調査と検査、人獣共通感染症、新興・再興感染症の有効な治療法開発の研究、WHOへの協力なども行っている。研究者・職員は、約300名が在籍している。

施設外観
BSL-4施設
施設周辺地図

諸外国のBSL-4施設視察・調査・トレーニング

主な事例

年月 事項(場所)
2011年9月 ドイツBSL-4施設視察(ハンブルグ)
2012年2月 南アフリカBSL-4施設視察(ヨハネスブルグ)
2012年3月 スウェーデンBSL-4施設視察(ストックホルム)
2012年4月 米国BSL-4施設視察(ガルベストン)
2013年11月 ドイツBSL-4施設視察(マールブルグ・ハンブルグ)
2015年4月 フランスBSL-4施設視察(リヨン)
2016年8月 南アフリカBSL-4施設にてトレーニング(ヨハネスブルク)
2016年8-9月 米国BSL-4施設にてトレーニング(ガルベストン)
2016年12月 スウェーデンBSL-4施設視察(ストックホルム)
2017年2月 米国BSL4施設調査(ガルベストン・ボストン)
2017年2-3月 米国BSL4施設にてトレーニング(ガルベストン)
2017年2-3月 ドイツBSL-4施設視察
(ベルリン・ハンブルグ・マールブルグ)
2017年7月 カナダBSL-4施設視察(ウイニペグ)
2018年1月 ドイツ・スウェーデンBSL-4施設視察
(ハンブルグ・ストックホルム)
2019年3月 オーストラリアBSL-4施設調査(メルボルン・ジーロング)
2019年3月 米国BSL-4施設調査(ボストン)