麻疹(はしか)ウイルスが「協力」して脳炎を引き起こす仕組みを解明
~新規治療薬の開発やウイルス共通の進化メカニズム解明に期待~

■ポイント 
①麻疹ウイルスはまれに致死性の脳炎を引き起こすが、その発症メカニズムの解明が課題。
②麻疹ウイルスの神経増殖能は膜融合タンパク質同士の相互作用(協力・干渉)が決める。
③治療薬の開発や、様々なウイルスに共通する進化メカニズムの解明に期待。

■概 要 
 麻疹ウイルスは発熱と全身性の発疹を特徴とする麻疹(はしか)の原因ウイルスです。まれに脳に感染し、数年後に致死性の脳炎(亜急性硬化性全脳炎、Subacute sclerosing panencephalitis、SSPE)を引き起こしますが、本来、麻疹ウイルスは脳で増殖する能力を持ちません。したがって、麻疹ウイルスがどのように脳炎を発症させるのかは不明であり、そのメカニズムの解明が望まれていました。
 今回、麻疹ウイルスが神経での増殖能を獲得して脳炎を引き起こす、新たな進化の仕組みが解明されました。

 長崎大学高度感染症研究センター 柳雄介教授は、九州大学 白銀勇太 助教、同大学生 原田英鷹、京都大学 橋口隆生教授、鈴木干城 助教らと共同で、脳炎に由来する麻疹ウイルスの膜融合(F)遺伝子の解析を行いました。その結果、変異Fタンパク質と正常Fタンパク質の相互作用(協力または干渉)がウイルスの神経増殖能を決める重要なファクターであることをつきとめ、新たなウイルス進化メカニズムを明らかにしました。

   今回の発見はFタンパク質の相互作用を標的としたSSPE治療薬の開発や、細胞への侵入に膜融合タンパク質を用いるウイルス(新型コロナウイルス、ヘルペスウイルスなど)に共通する進化メカニズムの解明に役立つことが期待されます。

本研究成果は米国のオンライン科学雑誌「Science Advances」に2023年1月28日(土)午前4時(日本時間)に掲載されました。

※詳細はこちらをご確認ください。

■研究に関するお問い合わせ 
長崎大学高度感染症研究センター 教授 柳 雄介(ヤナギユウスケ)
TEL:095-819-8501