発表論文:The RNA helicase DDX39B activates FOXP3 RNA splicing to control T regulatory cell fate 日本語解説

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The RNA helicase DDX39B activates FOXP3 RNA splicing to control T regulatory cell

Minato Hirano, Gaddiel Galarza-Muñoz , Chloe Nagasawa , Geraldine Schott , Liuyang Wang , Alejandro L Antonia , Vaibhav Jain , Xiaoying Yu , Steven G Widen , Farren B S Briggs , Simon G Gregory , Dennis C Ko , William S Fagg , Shelton Bradrick , Mariano A Garcia-Blanco
Elife
PMID: 37261960 DOI: 10.7554/eLife.76927
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37261960/

 高度感染症研究センター・ウイルス生態研究分野・平野港助教らの制御性T細胞 (Treg) の制御に関する学術論文が2023年6月1日に英国の生命科学総合誌である“eLife”の電子版に掲載されました。

多発性硬化症 (multiple sclerosis: MS) は中枢神経系の慢性炎症を引き起こす指定難病であり、世界で約230万人の罹患者が推定されています。小康と再発を繰り返す慢性的な経過をとり、視力障害、感覚障害、歩行障害等の中枢神経系の症状によるQuality of Life: QOLの低下は深刻です。原因は未だ不明ですが、罹患率に人種差があることなどから、少なくとも遺伝要因が発生および重症化に関与すると考えられています。申請者らのグループは過去にMSの発症リスクの上昇に関与する遺伝子としてRNAヘリカーゼをコードするDDX39Bを報告しています (Galarza-Muñoz et al., 2017, Cell)。遺伝子より転写されたRNAはタンパク質へと翻訳され、細胞内において機能する際にPre-mRNA スプライシングと呼ばれる過程を経て成熟することが必要となっています。過去の報告においてDDX39BヘリカーゼはIL7Rと呼ばれる遺伝子のPre-mRNA選択的スプライシング効率を変化させることで、MSの発症に関与しうることを報告しています。本研究では免疫系細胞におけるDDX39Bのさらなる機能解析を実施し、Tregの分化および機能に重要な役割を持つことを発見し、報告を行いました。

shRNAを用いた遺伝子発現を抑える手法により、健常なヒト末梢血単核球のDDX39B発現を抑制し、次世代シークエンシングにより発現遺伝子の変化を網羅的に解析いたしました。結果、FOXP3とよばれる遺伝子の発現がDDX39Bの抑制により顕著に低下していることが明らかになりました。FOXP3は体内において免疫応答を抑制する働きを持つTregと呼ばれる細胞の分化を担うマスター転写因子であり、生体内の免疫系の暴走を抑制する上で極めて重要な機能を持ちます。DDX39Bを抑制した細胞においてはFOXP3の発現低下と共に、Tregとしての機能低下が考えられる形質が認められました。さらなる解析により、DDX39Bの抑制によりFOXP3 のPre-mRNAスプライシングは正常に進まず、成熟mRNAとして機能できないことが示されました。また、FOXP3遺伝子はスプライシングの効率が極めて悪い、特異なイントロン配列 (C-rich py tract) を持ち、この配列は様々な生物種間で保存されていました。そして、この配列がFOXP3遺伝子のDDX39B抑制への感受性を決定づけていることを示しました。以上のことから、DDX39BはFOXP3の発現に極めて重要な役割を持ち、この機能低下は免疫系の制御失調を通してMSの発症および増悪に関与しうることが示唆されました。

その機能の重要性故かFOXP3の発現は、非常に精緻に制御されていることが知られています。本研究は、FOXP3の「スプライシング効率の悪い」特異な遺伝子構造がさらなる制御レイヤーとして機能している可能性を示しています。また、DDX39B等の疾病に関与する因子の機能解析がMSの病態解明および治療法開発への基盤となることが期待されます。

図1 研究模式図

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